図書館の新刊コーナーで題名に惹かれて手に取った。
田中兆子は初挑戦の作家さん。『女による女のためのR-18文学賞』出身とのことだけど、『女による女のためのR-18文学賞』の出身者って、地味に活躍している人が多いな…って感心してしまった。窪美澄とか山内マリコも『女による女のためのR-18文学賞』出身だったような。
『あとを継ぐひと』はお仕事小説。6つの短編が収録されているので、社会人ならどれか1つくらいは気になる作品があるかも知れない。
あとを継ぐひと
- 「跡継ぎ」や「仕事」をテーマにした短編集。表題作を含む6作品『跡継ぎのいない理容店』『女社長の結婚』『わが社のマニュアル』『親子三代』『若女将になりたい!』『サラリーマンの父と娘』を収録。
- 理容店、駄菓子工場、酪農家、旅館…など。
- 良い話系が多いので安心して手に取ることの出来る秀作。
感想
「感動した!」とか「何度も読みたい!」と言うほどでもないけれど、手堅くまとめて上手いな…って印象。とりあえず他の作品も読んでみたいし、応援したいとは思った。
ただ、全体的に良い話が過ぎる感じなのが残念だった。
例えば、障害者雇用を勧めている会社に途中入社した主人公を描いた『わが社のマニュアル』。目の付けどころは良いと思ったのだけど、綺麗事だけを描いていて上滑りな印象を受けた。
私は現在放課後等デイサービスと言う施設で働いていて、障害を持ったお子さんと関わっているのだけれど『わが社のマニュアル』に描かれていた世界は綺麗事過ぎて共感出来なかった。
現実的に障害者雇用を積極的に進めている会社があるのも知っているし、テレビや雑誌等でも取り上げられているけれど、テレビや雑誌で取り上げられているのはあくまでも光の部分に過ぎない。
影の部分を描くことなく、テレビの「感動ドキュメンタリー」の枠で終わってしまっているのが残念だった。
テレビの「感動ドキュメンタリー」の枠で終わってしまっている…ってことについては、他の作品でも似たり酔ったりではないかと推察する。だって、なんとなく『カンブリア宮殿』とか『プロフェッショナル仕事の流儀』で観たことある感があったもの。
目の付けどころは良いと思うし、読みやすい文章で高感度は高いのだけど、いかんせん掘り下げが出来ていないのだ。「イイハナシダナー」とは思うものの、心にグイッと食い込んでこないのだ。
ただ、田中兆子の描く真面目で真摯な人間像は嫌いじゃない…って言うかむしろ好きだ。
『あとを継ぐひと』はイマイチだったけれど、他の作品も読んでみたいし、次の作品に期待している。