私は吉村昭の書く文章にゾッコン惚れこんでいるのだと思う。痺れてしまった。ゾクゾクしてしまった。ときめいてしまった。
多くの男性作家さんの中で、心の父と慕い敬愛しているのは遠藤周作だけど、恋人のように思っているのは吉村昭なんだなぁ……と今更ながらに気が付いた。
吉村昭…素敵過ぎる……なので、身贔屓入りまくりの感想しか書けそうにない。
羆嵐
ザックリとこんな内容
- 1915年(大正4年)に北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢 (現在の苫前町三渓)でヒグマが開拓民を襲った三毛別羆事件をモデルにした作品。
- 北海道苫前村六線沢の島川家をヒグマが襲い、2人を殺害する。
- ヒグマは2人の通夜の席にも現れ、さらに隣家に侵入し子供や妊婦を殺害した。
- 凄腕の猟師山岡銀四郎とヒグマとの戦い。そして戦いの果に…
感想
北海道開拓を志した人々と、人を喰らう羆、そして、それを追うマタギのドキュメンタリ小説。
あいかわらず贅肉をそぎ落とした文章が素敵だった。地味で控え目。読者に媚びない潔さがたまらなくダンディ。
しかしこの作品で何よりも印象に残ったのは「野生の熊は恐ろしい」という1点に尽きる。
本気で恐かった。そんじょそこらのホラー小説や、ミステリー小説よりもずっと恐かった。
北海道で暮らす倉本聡が解説に「いやな物を読んでしまった」と書いていたけれども、私だってその土地に暮らしていたら、そんな風に思っただろう。
較べちゃ駄目だとは思うのだけど、少し前に熊谷達也のマタギ小説『漂泊の牙』読んで「なんだか物足りないなぁ」と感じたのを思えば雲泥の差ともいえる迫力だった。
淡々とした文章と、冷たい視線が恐ろしさを増幅させていて、最初から最後まで、いっきに読んでしまった。
作者の作品の中でも、私の中では上位入賞クラス。作者は「対人間」の話を書くのが上手い人だけど、こういう作品もいいなぁ……と思った。