百田尚樹、3年ぶりの長編小説。百田尚樹は『夏の騎士』を最後に小説家を引退すると明言しているので、百田尚樹の最後の作品…と言うことになる。(もし本当に引退したら…の話だけど)
百田尚樹と言うと、思想的に右寄りの人で、なんだかんだとお騒がせな作家さん。『カエルの楽園』にしても『永遠の0』にしても、なかなかぶっ飛んでいる。
『夏の騎士』は「少年達のスタンドバイミー」みたいなコンセプトの作品だけど、さり気なく右寄りの思想をぶっ込んでいる。
それでもなお面白かった!
「こまけぇこたぁ、いいんだよ」と受け流せる人なら、和風スタンドバイミーとして楽しめると思う。
夏の騎士
- 主人公宏志は小学校6年生男子。『アーサー王物語』に登場する騎士団に憧れて自分も騎士団を結成しようと思い立つ。
- 宏志は秘密基地の仲間、陽介と健太と騎士団を結成。
- 騎士団か忠誠を誓うレディはクラス1の美少女、帰国子女の有村さん。
- 騎士団の最終目標は、去年起きた児童殺人事件の犯人を探し出すこと。
- ある日、有村さんから外部模試を受けて欲しいと依頼を受ける。
- 有村から提示された条件は、1人でも模試の順位が100位以内に入れば騎士団のことを認める…と言うもの。
- 騎士団の面々は外部模試での高得点を目指して勉強するが、なかなか上手くいかない。
- そんな騎士団を助けてくれたのは口が悪くて嫌われ者の女子、壬生だった。
感想
『夏の騎士』はアニメ化したら面白いんじゃないかと思う。
正直、大人向けの作品としては都合良過ぎだし、登場人物が出来過ぎだったりするもものの「少年のひと夏の思い出」として王道中の王道で好感を持てた。
『ズッコケ三人組』のように、出来の悪い3人の少年達が騎士団を結成するとか、もうそれだけで浪漫あり過ぎだと思う。そして騎士団を結成するだけでなく、崇拝するレディまで作っちゃうあたり…甘酸っぱいじゃないか。
主人公の少年達はそれぞれ劣等生だってところが気に入った。
例えば森見登美彦の『ペンギン・ハイウェイ』の主人公は超絶頭が良くて大人びた少年だったけれど、騎士団の面々はせいぜい「やれば出来る子」止まり。しかも、母子家庭で育ったいて父親を知らなかったり、吃音で悩んでいたりして「クラスカースト」で言うなら最下層組。そんな彼らが騎士団を結成した事でググッと成長していくのだ。
そして、真のヒロイン壬生が良い味出してた。
壬生は母親が精神疾患を患っていて肩身の狭い思いをしてきた。クラスの中では「口が悪くて乱暴な女の子」と言う位置づけなのだけど、壬生は反撃こそすれ自分から他人を貶める子ではなかった…ってのもグッと来る。
一部の人達の間は有村さんの扱いに腹を立てているみたいだけど、むしろ私は登場人物の中では有村さんが1番リアリティがあると感じてしまった。
実際いるもの、有村さんみたいな女子。美人で何も出来るけど、根っこのところでは「それって…?」みたいな子。有村さんのオチは「上手いなぁ」と感心してしまった。
騎士団のメンバーが大事件を解決するくだりはスタンドバイミーだから仕方ない…としても、後日談は余分だった気がする。
騎士団のメンバーと壬生を立派過ぎる大人にしてしまったことで、一気に夢から醒めてしまった…って事だけは残念に思った。
それはさておき『夏の騎士』は爽やかで良い作品だと思う。個人的には百田尚樹の思想が色濃く出ている『カエルの楽園』や『永遠の0』より、気に入った。
子どもでも読めそうな軽い文章なので「気軽にスタンドバイミー的な物語を楽しみたい」って時にオススメしたい。