10年以上ぶりに『レインマン』を視聴した。
『レインマン』は公開時も劇場で観たし、その後もテレビ等で何度も観てしまうほど大好きな作品。夫にも是非観て欲しいと思っていて、先日ついにその機会に恵まれた。
『レインマン』は1988年の作品なのでザックリ30年以上前の作品と言うのだから驚きだ。
作品の素晴らしさもさる事ながら、とりあえずトム・クルーズの正統派男前っぷりに驚愕して欲しい。
『ミッション・インポッシブル』のトム・クルーズしか知らない若い方に是非観て戴きたい。
今回の感想はネタバレ全開なので、ネタバレNGの方はご遠慮ください。
レインマン
レインマン | |
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Rain Man | |
監督 | バリー・レヴィンソン |
脚本 | バリー・モロー ロナルド・バス |
原作 | バリー・モロー |
製作 | マーク・ジョンソン |
製作総指揮 | ピーター・グーバー ジョン・ピーターズ |
出演者 | ダスティン・ホフマン トム・クルーズ ヴァレリア・ゴリノ |
音楽 | ハンス・ジマー |
あらすじ
主人公のチャーリー(トム・クルーズ)は高級車のディーラー。しかし、経営が行き詰まっていて、今にも倒産しそうな状態。
そんなチャーリーの元に絶縁中の父の訃報が届く。チャーリーは父の遺産をもらうべく故郷に帰るが、チャーリーに残された父の遺産は古いクルマと薔薇の花だけ。
父の莫大な財産は施設で暮らす自閉症の兄、レイモンドに信託財産として運用されることになっていたが、チャーリーは父の死まで自分に兄がいる事さえ知らされていなかった。
チャーリーは遺産を手に入れようと、施設から強引にレイモンドを連れ出し、ロサンゼルスに戻ろうとする。兄のレイモンドとの旅をすることで、チャーリーが今まで知らされていなかった様々な事実が浮かび上がってくる。
ダスティン・ホフマンの演技力
映画の公開当時は「自閉症」や「サヴァン症候群」は現在ほど知られていなかった。
今となっては信じられないような話だけれど「自閉症は親の育て方が原因」と本気で思っている人さえいた時代だ。
映画公開当時は「ダスティン・ホフマンの自閉症の演技が凄過ぎる」と話題になったのを覚えている。実際凄い。
ダスティン・ホフマンはレイモンドのモデルになったキム・ピーク氏に直接会ったりして、自閉症について相当な勉強をしたとのこと。
ちなみに、レイモンドのモデルになったキム・ピーク氏(2009年に他界)は これまで読んだ書物を写真のように正確に記憶する事が出来て、普通の人が3分かかって読む本をを8秒で読むことが出来たらしい。
『レインマン』を初めて観た時はダスティン・ホフマンの演技力に驚愕した。
首のかしげ方や視線の動かし方まで自閉症の人の特徴を捉えていて「自閉症の人をテーマにしたドキュメントです」と言われても納得して観ただろうと思うレベル。
障害を持つ人との生活
『レインマン』では主人公のチャーリーと自閉症の兄のレイモンドが一緒に旅をすることで心を通わせていく過程が丁寧に描かれている。
「心を通わせていく過程」と書いてみたものの『レインマン』の本当に素晴らしいところは、心を通わせたところも描きつつ「越えられない壁」をキッチリ描いたところにあると私は思っている。
知的障害を持つ人や発達障害を持つ人と実際に関わってみると「彼らも私達と同じなんだなぁ」と感じる反面、越えられない壁を感じる事がある。
主人公のチャーリーは兄と旅をする中で「自分が兄を引き取って兄と一緒に暮らしたい」と思うようになるのだけれど、兄のレイモンドはチャーリーに対して、チャーリーが思っているのと同じ感情を抱くことが出来ないのだ。
互いに心を通わせたように思えた兄弟が最後に別れる場面は実に切ない。
そして兄弟が幼い頃に引き離され、弟に兄の存在を隠していた理由もこれまた切ない。
チャーリーとレイモンドの母親はチャーリーが幼い頃に病気で他界しているのだけど、兄のレイモンドが施設で暮らすようになったのは母親が亡くなった時期とほぼ同じ。
レイモンドの失態からチャーリーが大火傷を負いそうになった事件があり、父親はチャーリーを守るためにレイモンドを施設に入れたのだった。
これは知的障害の人だけの話ではなく、認知症の人の介護にも重なるテーマだと思う。
「当たり前のことが当たり前に出来ない人との生活」って、普通の人が想像できないようなトラブルが多発する。
父親が重度の自閉症の兄と幼い弟を抱えて生活するのは無理だっただろうし、兄を施設に入れたのは正しい選択だったと思う。
こういう事って綺麗事だけで語れる問題ではないのだ。
チャーリーは本気で「兄と一緒に暮らしたい」と思うのだけど、チャーリーはしょせん兄と1週間旅をしただけに過ぎない。
何年も一緒に暮らすとなると、やっぱり世話をし切れなかったんじゃないかと思う。
楽しいパートもあるのです
『レインマン』が名作とされるのは「お涙頂戴の障害者映画」に留まっていないところにあると思う。
テーマ自体は重いけれど、どちらかと言うと楽しいパートの方がずっと多い。
中でも痛快なのが、兄弟でラスベガスへ行ったくだり。
チャーリーは兄が天才的な記憶力を持っていることを利用して、兄にブラックジャックを教えて、ラスベガスに乗り込む。当然ながら2人は大勝ち。
兄のレイモンドも彼なりにラスベガスを楽しんだらしく、女性をデートに誘ってみたり、女性とデートでダンスを踊るために、兄弟でダンスの練習をしたりもする。
「他人と身体を接触するのが苦手」なレイモンドがチャーリーとダンスする場面は美しく心暖まる名場面だと思う。
エンドロールの秘密
『レインマン』は細かいところまで本当に気が利いていて、視聴する時は是非エンドロールにも注目して戴きたい。
エンドロールでクレジットと一緒に写真が流れるのだけど、実はあの写真はレイモンドが旅の途中に撮影したもの。
映画をじっくり観ていると、レイモンドはカメラを持っていてちょいちょい写真を撮っている。
写真は一般的な記念写真やポートレートと違って「どうして、これ撮った?」みたいな被写体だったり、ピンとがズレていたりする。
しかし、エンドロールに流れる写真こそがレイモンドの世界だったのだな…と思うと感慨深いものがある。
私がこのエンドロールに気付いたのは何度目かに観たときのこと。初回を映画館で観た時は全く気がつかなかった。
寄り添いつつもどこか分かり合えない兄と弟の旅。
『レインマン』は30年経った今観ても名作だな…と思う。