作者の蔦森樹は女性として生きる「元・男性」で、ゲイではなく「女性になりたい男性だが、恋愛対象は女性」とのこと。
作者を投影した主人公と、恋人の女性の恋愛を描いた作品で、恋人がインドへ旅行していて、1人になった主人公の心境が切々と描かれていた。
愛の力
- 主人公は女という性で生きることを選んだ男性。
- 1993年に発表された『男でもなく女でもなく』の続編。『愛の力』単体でも読むことは可能。
- 主人公の愛の新たな旅立ちを描く。
感想
正直なところ「ごめんなさい。苦手です」ってタイプの主人公だった。粘着質とい言うか、湿っぽいと言うか。お友達になりたくはないタイプである。
一緒にいたらイライラしてしまいそう。束縛して相手を窒息死させちゃうタイプの愛し方をしてしまう人のようにお見受けした。ジェンダー問題がどうのという以前に、個人的に人間として苦手なタイプ。
主人公の恋人のインド旅行の様子は、かなり楽しめた。
聖者(ババ)との係わり方や、インドの食べ物、そしてインドという国で1人になって考えたことなど、電話やFAXで送られてくる「インド紀行」は魅力的で、私も早いとこインドへ行っておかねば……と真剣に考えてしまったほどだ。
インドは今までだって憧れの国だったけれど、今までにも増して憧れてしまうではないか。
個人的には「性」とか、どうとか言うよりも、人間が個人として尊重されて生きることのできる社会であった欲しいと思うし、そういう活動をしている人は応援したいと思う。
ただ、こういう問題ってのは微妙な「好み」があるのだろうか。
正直「係わり合いたくない」と思ってしまった。
宗教問題をからめていたあたりも、ちょっとな……。たしかに「性」の問題と宗教問題は切り離せないものではあるのだけれど。
「恋愛」を楽しむでなく「性」について考えるわけでもなく、ただただ「インド行きたいなぁ」と思っただけの1冊だった。
もし作者の本を読む機会があるとしたら、純粋なエッセイがいいかも知れない。どうにも肌に馴染まない作品だった。