表題作は第23回太宰治賞受賞。他2編収録。素晴らしく気持ちの良い秀作だった。
音楽が好きな人に是非とも読んでいただきたい。むしろ音楽に興味の無い人に読んでもらいたいように思う。
私は音楽が好きだけど、演奏の方はサッパリ駄目。
ピアノとギターを少しばかり弾いていたけれど、今は手元に楽器さえない。チューバなんて楽器にはまったく縁がなかったし興味も無かった。
それなのに、「チューバ」って楽器に引き込まれてしまったのだ。読み終わった後で「チューバの事をもっと知りたい」と思ってしまうほどに。
チューバはうたう―mit Tuba
ならば、私が、吹いてやる。私の肺は空気を満たし、私の内腔はまっすぐにチューバへと連なって天へと向いたベルまで一本の管となり、大気は音に変わって世界へと放たれるのだ―。
第23回太宰治賞受賞作の表題作の他、渾身の書き下ろし作品2編を収録する。期待の新人の最新作品集。
アマゾンより引用
感想
主人公は中学生の頃から、1人で黙々とチューバを吹き続けるOL。
音楽への愛…というか、チューバへの愛が半端ない。し
かしそれは「熱血!」な感じの暑苦しさは無くて、もっと静かで離れがたい「愛着」のようなノリなので、読んでいても不快ではないし、草臥れたりもしない。
ただ作品を読んでいるうちに、読者も主人公とチューバに寄り添ってしまう魅力があった。
「熱血!」な感じの暑苦しさは無いと書いたのだけど、それは物語の冒頭部での話。
主人公は色々な人と出会うことによって、チューバとの関わり方が変わってくるのだ。「チューバを吹く喜び」とか「音楽を演奏することの陶酔」とか、そんな熱さを身を持って体験していく。
音楽を文章で表現した作品に小池昌代の『弦と響』があるけれど、その中で感じた陶酔と少し似ているように思った。
だがそれは「類似」と言う意味ではなくて「音楽を文章で表わそうとした作家さんが、ここにもいたんだなぁ」って感慨だ。
とても爽やかで読後感も良かった。
「青春小説」とか「成長小説」に分類しても良いような内容だけど、敢えて言うなら「音楽小説」なのだと思う。
瀬川深の作品を読むのは初めてだったのだけど、他の作品も読んでみたいと思う。