題名の「てれんぱれん」とは、なんとなくぶらぶらと過ごしてなまけている人を非難する時に使う言葉とのこと。
ビルの掃除婦をしながら子供を育て上げ、ようやくゆっくりと生きられるようになった女性が、自らの子供時代を振り返る。
そこには古き良き日本の家族の姿が描かれていて、なんとも温かい気持ちにさせられた。
てれんぱれん
てれんぱれんと頼りなく生きてきた父親には不思議な力が備わっていた。
ある日、「わたし」に謎の女性が近づく。心に響く、静謐な物語。
アマゾンより引用
感想
主人公は子供の頃「ニラ焼き屋のよっちゃん」と呼ばれていて、ニラ焼き屋は主人公の母親が切り盛りしていた。父親は心臓が悪く「てれぱれん」と暮らしていた。
決して豊かとは言えないが、思いやりと慈しみのある家族の風景は読んでいて、とても気持ちが良かった。
主人公の父親は、不思議なも(霊のようなもの)が見えるらしく、どうやらそれは彼が長崎で被爆したことが発端になっているらしく、原爆の話が語られるのだが、ありがちな戦争物と違って押し付けがましくないところがとても良かった。
決して暗い作品ではないのだけれど、静かな哀しみが伝わってくる作品だった。そして哀しみだけでなく、愛情も伝わってくる作品だった。
ちょっと、今まで読んだことのないタイプの作品だ。たとえるなら、水面に小石を投げ込まれて、ゆっくりと波紋が広がっていくような……そんな雰囲気のある作品なのだ。
作者の青来有一は長崎県出身とのことだが、やはり原爆に対して何某かの思いがあるのだろう。
原爆の扱いがなんとも自然なのだ。「戦争はむごいです。戦争はしちゃいけません」と声高に叫ぶのではなく「こんな哀しいことがあったのですよ」と淡々と語りかけてくるのだ。
主人公も、「てれんぱれんして」と言われていた主人公の父親も、せっせとニラ焼きを焼き続けた母親も愛しく思えてならなかった。
派手さや勢いは無いけれど、心温まる良い作品だと思う。青来有一の作品を読むのはこれがはじめてだけど、これを機に他の作品も読んでみたい。