日本初の総合変態雑誌「奇譚クラブ」について検証した本である。
そのテの物が苦手な人が読めば、気分の悪くなるような写真やイラストが満載で、一見すると、かなりエロティックな風に見えるのだが、内容自体は「硬派」なことこの上ない。
それはそれは真面目な作品だと思う。
「奇譚クラブ」の人々
団鬼六『花と蛇』、沼正三『家畜人ヤプー』を生んだ伝説の雑誌。終刑から四半世紀を経て、幻の雑誌として熱く語られている「奇譚クラブ」。
関係者の証言をまじえ、豊富な写真・図版とともにその全容に迫る。
アマゾンより引用
感想
あとがきに「開発者としての奇譚クラブに惹かれる」ということが書かれてあったが、まったくもって、彼らの開発者魂は素晴らしいと思った。
私の中では地味で真面目な吉村昭の小説に登場する開発者や、漂流者達と、「奇譚クラブ」という変態雑誌を作り上げていった関係者達は、まったく同じラインに存在する。
真面目な努力家が好きだ。一途に道を求めていく人は素敵だ。
「奇譚クラブ」はアウトサイダー的な雑誌だけに、そこに集まる人達がかける熱さは尋常ではない。その純粋さは、切なくて哀しくもあり、また尊くて美しくもある。
「切羽詰っている」というか「悲壮感」というか、そういう追い詰められた感じが、文章なりイラストなりに表現されていて、そこがまた魅力的だったりする。
名だたる文豪達が「奇譚クラブ」と深く係わっていたという部分も見逃せない。
恐らく、誰もが多かれ少なかれ持っているであろう薄暗い本能を、強く感じていた人達なのだろうなぁ……彼らは。三島由紀夫、川端康成、渋澤龍彦、江戸川乱歩……彼らの作品を思い返してみるだに「なるほどなぁ」と頷ける部分は多い。
この系統の話題が出ると、必ずといっていいほど『家畜人ヤプー』の作者沼正三の正体は誰だったのか?
……というところへ行き着くのだが「分からなくても……もとい分からない方がいいじゃないか」とまとめているあたりは、粋だなぁ……と思った。
どうでもいい話だが、この作品が普通の書店の文庫本コーナー(それなのにアマゾンでは18禁扱い)で平積みされているのにはちょっと吃驚だった。
こういうことを、あけっぴろげに語れる世の中って、いいなぁ……と思う。
その反面、陽のあたる場所に引きずり出されたようで、ちょっぴり残念に思う部分も。
もしかしたら「奇譚クラブ」が廃刊になった理由も、その辺りにあるのかも知れない……などと思ったりした。