ある家族の40年を描いた作品。桂望実の作品を読むのはこれで3冊目だけど、この作品が1番気に入った。
先に読んだ『明日この手を放しても』『諦めない女』ほど凝った感じが無かったけれど、しみじみ読ませるスタイルで、むしろ好みだ。
軽くネタバレを含むので「ネタバレは絶対に嫌だ」な方はご遠慮ください。
僕は金になる
- 物語のスタートは主人公が小学生の時。
- 主人公の両親は離婚していて、ギャンブル好きの父は将棋の強い姉を連れて家を出ている。主人公の少年は看護師をしている母と2人暮らし。
- 主人公は時折、母親には内緒で姉と父に会いに行く。
- 普通の主人公と普通じゃない姉の半生を描いた物語。
感想
家族の物語…ではあるけれど、母はほとんど登場しない。
メインはギャンブル好きで駄目人間の父親と、将棋の強い姉。ギャンブル好きの父は娘に賭け将棋をさせて、賭け将棋で得たお金で生活している。
姉は将棋しか出来ない人で発達障害なのだと思われる。将棋は強いけれど、食事中に寝てしまううし、将棋を刺した後に対戦相手と検討する「感想戦」は「しない」し「出来ない」。ついでに言うと、家事等、当たり前の事が当たり前にこなす事が出来ない。
父親は人として失格って感じだし、姉は将棋しか出来ないけれど、プロにもなれない中途半端な存在。一般的に言うと父親も姉も「人としてアウト」な感じなのだけど、普通の感覚を持って生まれてきた主人公は姉と父親に対して、妙なコンプレックスを持って生きている。
父親も姉も一般的な価値観の中で生きていないので、主人公はいつも彼らに振り回されるのたけど、それでも付かず離れずで2人とか変わっていく。
物語の途中で主人公がプロの女流棋士と知り合うエピソードがある。
「将棋が強いヒロイン」「賭け将棋で生きている少女」がプロの棋士と出会うなんてエピソードって、普通に考えると「ここで人生が大きく変わって姉はプロ棋士になる」って流れになると思うのだけど、結局姉はプロ棋士になる道を選ばず、最終的には「将棋教室の先生」に収まっている。
この作品。個性的な人物設定を作っていながら、そんな彼らに「上手くいかない人生」を送らせているところが凄いと思った。
普通、そこまで作り込んだら派手なエピソードを展開すると思うのだけど、そこをあえて裏切ってくるのが上手いと思った。
でも、現実ってそんなもの。華々しい人生を送る人なんて、一握りしかいないのだもの。社会的な成功をつかめない人の人生を淡々と描いているところは、ちょっと新鮮な感じがした。
この作品。NHKあたりでドラマ化したら絶対に面白いと思う。
読んでいてスカッとしないし、歯がゆい場面も多いのだけど、金子みすゞの『みんなちがって みんないい』的な、しみじみとした愛情を感じるところがとても良い。
突飛な設定とは反対に派手な展開はまったくないけれど、最初から最後まで面白く読ませてもらった。