『明日この手を放しても』は19歳で中途失明した完璧主義の妹と、大雑把な性格の兄との12年間を描いた作品。
テーマはズバリ「兄妹愛」。
近親相姦とか、そう言うのではなくて純粋な兄妹愛だ。しかも、中睦まじく麗しい物ではなく、互いを大切に思っているのにギクシャクして上手くいかない兄妹で、読んでいてとても好感が持てた。
明日この手を放しても
- 潔癖症で完璧主義の凛子は19歳で視力を失った
- 兄の真司は女にモテるのにフラれてばかり。
- ある日兄弟の父親が謎の失踪。凛子と真司の2人きりの生活がスタートする。
感想
「妹が失明する」ってエピソードを使うとなると、どうしても「麗しい兄妹愛」になってしまいがちだと思うのだけど、お互いの意地っ張り具合が、そこここにいる沢山の兄妹達の中に紛れていそうな感じで、とても親近感を感じた。
妹も兄も、完璧な人間でないところがまた良い。不器用だけど、馬鹿だけど、可愛げが無いけれど、でも憎めない……って感じ。
この物語を読んでいると「人間っていいなぁ」とか「人間の良い部分を信じて生きていきたいなぁ」なんて言う、温かな気持ちにさせられる。
実際問題として、自分の身、あるいは家族に大変な困難がのしかかってきた時、家族は助け合っていくのが理想だと思うけれど、自分を含めて周囲を見渡していると、いちがいに「そうだ」とも言えないのが哀しい。
この作品の兄妹は、やはり素敵なケースだと思う。
……とは言うものの、この作品の兄妹以上に素晴らしい兄妹や家族は沢山いるのも事実で、この作品はその辺の虚実の取り入れ方が絶妙に上手い。
最期まで気持ち良く読むことが出来たのだけど、全般的に漫画っぽいと言うか、ちょっと軽い感じがするのは少し残念だった。
物語のテーマ上、仕方が無いことなのは分かっているけれど「オレ達の戦いはこれからだ!」的なラストは締まりが無いように思った。どんな形でも良いので、ある程度の事柄に決着を付けた方が良かったと思う。
「ものすごく」とは言い難いけれど、そこそこ楽しめた1冊だった。