私がこの本にキャッチ・コピーを付けるなら『ヤバイくらいに面白い』にすると思う。
問答無用でズルズルと引き込まれてしまった1冊だったのだ。うわぁぁヤバイよ……ヤバ過ぎるよ……と思うほどに。
悪童日記
戦火の中で彼らはしたたかに生き抜いた――
大都会から国境ぞいの田舎のおばあちゃんの家に疎開した双子の天才少年。
人間の醜さ、哀しさ、世の不条理――非情な現実に出あうたびに、彼らはそれをノートに克明に記す。
独創的な手法と衝撃的な内容で全世界に感動と絶賛の嵐を巻き起した女性亡命作家のデビュー作。
アマゾンより引用
感想
舞台は第二次世界大戦後期ハンガリーの田舎町。主人公は「2人で1人」の双子の少年で「ぼくら」という一人称でもって語られる。
「ぼくら」は魔女と呼ばれる祖母の家に疎開して、そこで色々な経験をしていく。
その経験は、道徳的に見ると「悪いこと」ばかりだったりする。心の闇とか、人間の残虐性とか、そういうレベルの問題ではなくて、まっとうな人間なら、誰しもが「悪い」と思うような…そんな経験。
- ぼくらは、少年でありながらセックスをする。
- ぼくには、死んだ兵士から身につけているものを奪い取る。
- ぼくらは、下宿している将校を相手にSM行為を楽しむ。
- ぼくらは、平気で嘘をつく。
- ぼくらは、平気で人ほ殺す……
こうやって「ぼくら」のした経験を箇条書きにして並べていくと悪趣味で残虐な小説のような気がするし、実際その通りなのだけれども読み手は「ぼくら」を嫌いにはなれないのだ。
物語の中で「ぼくら」は生き生きと輝いて魅力的だし「ぼくら」は単なる愉快犯として生きているのではなく、理論立てて生きている。
何よりも「ぼくら」が持っている生きる力は賞賛に値する。
物語の構成力もさることながら、文章の作りが恐ろしいほどに上手い。ひとことで言うと「キレのある文章」だと思う。
この作品は、アゴタ・クリストフの処女作にして大ベストセラーになったと言うが、なるほど人々が熱狂したのも無理はないと思えるほどの面白さだった。
日本の小説家の作品だと、村上龍のものが近いような気もする。
村上龍の描いた「悪」が冷血動物の犯した悪事ならこの作品が描いた「悪」は温かい血の流れる動物が犯した悪事だと思う。それくらいこの作品の中で描かれる「悪」は鮮烈なのだ。
ただ、この小説は内容が内容なので、誰にでもオススメできるタイプの作品ではない。
率直に言うと、まだ道理をわきまえていない子供には読ませたくないし「正論」以外は認められないというタイプの人には、とてもオススメできない。
本当の意味での「大人」に楽しんでもらいたい作品である。
しっかりした目と頭で読み進めていけば、この作品が「悪いこと」を面白おかしく書いたのではないということが、しっかり伝わると思うのだが、そうでない場合は、ちょっと恐いような気がした。
私にとって、この作品は2002年に読んだ海外小説No1になりそうなくらい面白いと感じたし、多くのことを考えさせられた作品。
しかし内容が内容なだけに「本屋の手先」として誰にでもオススメできないのが残念である。
殺伐とした作品を読むのが平気で「これは小説の手法である」と理解できる大人には、それでも読んでもらいたいなぁ……と思う作品だった。