恋愛だの、心中などをテーマにした短編集。もちろん舞台は岡山県。独特の言葉遣いがと「ぼっけぇ 心地えぇ」小説だ。しかし浪漫ティクな恋愛譚を期待して読んだら、がっかりするかも。面白かったけれど、心中物としては変化球だったから。
以前、大ブームになった『失楽園』のインタビューかなにかで渡辺淳一が「今の世の中はタブーが無くなってきたので、心中する理由さえない。私は心中物が書きたかった」と語っておられたのを記憶しているが、渡辺淳一がとらえた理由よりも、この作品で作者が鮮やかに描いてみせた「理由」の方が文学的な気がした。
普通、心中は「惚れあった者同士が叶わぬ恋のために死ぬ」というイメージがあるが、作者の書いた心中は「生きていたくない者同士が、なりゆき上、たまたま一緒に死ぬに至った」という気だるく、虚無的なものである。もちろん、そこに恋愛感情もあっただろうが、それよりも、その人間に巣食っていた虚無の方が、よほど怖かった。
どの作品にも漂う、けだるい感じが、たまらなく良かった。
これで、もうちょっと物語的に面白ければ、文句なしの百点満点なのだけれど、今回は雰囲気や理屈は面白かったけれど、ストーリーとしては面白味に欠けていたのが残念。そろそろ作者の書いた長編小説が読みたいなぁ……と思った。
がふいしんじゅう-合意情死 岩井志麻子 角川書店