藤野千夜の作品を読むのは2冊目。
芥川賞作家との事だけど、前回読んだ『D菩薩峠漫研夏合宿』があまりにもラノベっぽくて「この作家さんって、毎度こんな感じなの? それとも、これは作者にとって異色な感じなの?」と気になったので最新作を読んでみた。
結果から言うと前回読んだ作品は変化球だったのだと思う。今回の作品は至って普通の小説でちょっと安心した。
すしそばてんぷら
早朝のテレビ番組で、お天気お姉さんをしている寿々は、隅田川のそばで祖母とふたり暮らし。
おばあちゃんには、ノシたこ、おにぎらーずなど、おやつまでも作ってもらっていた。そんな彼女が「江戸まちめぐり」ブログを開設することに。
浅草の天ぷら、どじょう、うなぎ、寿司、神田のそば、王子の玉子焼きなどと出会い、寿々は料理もお店も街も人も、時間がずっとつながっていることを知り、日々の暮らしと人生の愛しさを感じるのだった。
アマゾンより引用
感想
実は題名を見ただけで借りたので、小説ではなく「東京うまいもの歩き」的なエッセイ集だと思ってた。確かにその雰囲気はあるものの、ちゃんとした物語になっている。
主人公は下町で「おばあちゃん」の家に居候しているお天気キャスター。祖母と暮らす事で江戸の食べ物に興味を持つようになり、事務所のすすめで「江戸まちめぐり」と言うブログをはじめることになる。
読書は主人公と共に「江戸の美味しいもの」を探訪する……と言う作りになっていて、軽めながらも楽しい作品に仕上がっている。
読みやしくて、軽くて、明るいタッチなので入院していたり、病気療養中の暇つぶしに読むのにはもってかいだと思う。
ただし物語の性質上、食養生をしている人にはオススメ出来ない。
本を読みながら猛烈に東京へ行きたくなってしまった。
大抵の大阪人は「食べるものは東京よりも大阪の方が美味しい」と思っている人が多くて、私もそう思っているけれど、実は「鰻・どじょう、そば・エスニック料理」については東京には敵わないと思っている。
ちなみに、この作品の中には鰻だの、どじょうだの、そばだの、東京の美味しいものが「これでもか!」と言う勢いで登場する。
どれもこれも美味しそうで、食べるのが好きな人間にとってはたまらないものがあった。
読む人を選ばない癖のない文章で面白いのだけど、人物描写は少し残念な感じ。
特に「おばあちゃん」が完璧過ぎる。
「まあ、作り話だからね」と言ってしまえばそれまでだけど、こんなに元気で都合の良い年寄りはガンダーラにしかいないと思う。
ヒロインにしても、ヒロインの周囲にいる人達にしても、なんかこう…アニメっぽいと言うか、作り物感が半端ない。
この類の小説にそこまで求めるのは酷かも知れないけれど、欲を言うなら、もうちょっと癖のある登場人物が欲しかったな……と思う。
感動するとか、考えさせられるとかいう重い作品ではないけれど、ちょっと疲れた時に読むには良い作品だと思う。