『蝶々さん』はオペラ『蝶々夫人』のモデルになった女性を描いた作品。
史実がどうなっているのかは知らないので、ある程度史実を踏まえたものなのか、それとも全くの創作なのかは分からないので、あくまでも「小説」として読ませてもらった。
蝶々さん
明治初頭、長崎港外の深堀に士族の娘として生まれた蝶は、父の形見の『学問のすゝめ』を読んで育つ。
かくれキリシタンの少女ユリとも仲良しになり、文明開化の夢がふくらむものの、コレラの流行で母と祖母を失って運命は一変。
小学校を卒業すると同時に丸山遊郭「水月楼」の女将の養女となって長崎へ向かう。
アマゾンより引用
感想
蝶々さんがアメリカ海軍士官と結婚した伊東蝶が生まれるところから自害するまでが描かれていた。
それなりには面白かったけれど、やたらテンポが悪かったり、そうかと思うと大切なところが吃驚するほどアッサリと流されてしまっていたりして、非常にバランスの悪い印象を受けた。
ヒロインが生まれるまでの経緯は不要だったと思う。佐賀の乱の話は退屈で欠伸が出てしまった。
「歴小説」ならまだしも、歴史を重点にして書きたいのでなければ、あそこまで書き込む必要は無かったのではないだろうか?
しかしヒロインが幼女から少女へと成長していく過程は面白かった。朝の連続小説さながらに、困難を乗り越えて勉強する少女というモチーフは「ありきたり」でも、グッっとくるものだ。
ただ、物語の核となる海軍士官との結婚から自害までの経緯は、首を傾げざるをえなかった。いったい作者は何を描きたかったのだろう?
「恋」を書きたかったのか、それとも「女の武士道」を書きたかったのか。どちらも中途半端な印象を受けた。
また、少女期まで「聡明な娘」として描かれていたヒロインが、その後「馬鹿な女」としか思えない行動に走っていくのには吃驚だった。
それが「狂おしいほどまでに燃え上がった恋ゆえ」のものなら納得もいくのだけれど、ヒロインは純粋な恋をしていたのではなく、打算があっての結婚だっただけに、何から何まで納得がいかず、自害にも同情することが出来なかった。
ヒロインの少女期の話は文句無しに面白かったのだけど、1つの作品としてみると「面白くなかった」としか言いようがない。
久し振りに気合を入れて挑んだ上下本だったのに、なんだか残念な読後の作品だった。