『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』はナガノによる漫画『ちいかわ』を原作とした長編アニメーション作品。フジテレビ系列「めざましテレビ」でアニメ化&放送されていて、漫画もアニメも大ヒットコンテンツとなっている。
『ちいかわ』は見た目的に可愛らしいキャラクターが大人気でコラボグッズなども多い反面、その物語はダークな内容になっている。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は『ちいかわ』の物語の中でも特にダークな内容の「セイレーン編」を映画化したもの。映画制作の発表を知った時は「本気でアレを映画化するのか?」と驚いた。
今回はすでに単行本が発売されている作品と言うこともあるので、感想を書くにあたっては盛大にネタバレを盛り込んでいきます。「ネタバレNG」の方はご遠慮ください。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
| 映画:映画ちいかわ 人魚の島のひみつ | |
|---|---|
| 原作 | ナガノ |
| 監督 | 及川啓 |
| 脚本 | ナガノ |
| キャスト | ちいかわ:青木 遥 ハチワレ:田中誠人 うさぎ:小澤亜李 モモンガ:井口裕香 くりまんじゅう:淺井孝行 ラッコ:内田雄馬 シーサー:島袋美由利 古本屋:春海百乃 島二郎:最上嗣生 セイレーン:鈴木みのり ヒトハ:寺澤百花 フタバ:鈴代紗弓 |
| 音楽 | トクマルシューゴ/上水樽力 |
| 封切日 | 2026年7月24日 |
| 上映時間 | 99分 |
あらすじ
ある日、休憩をするちいかわとハチワレの元に、うさぎが謎のチラシを持って現れた。それはとある島への招待状で「簡単な討伐で報酬100倍、美味しい食べ物実質無料」と甘い誘い文句が書かれていた。
ハチワレの師事するラッコも誘い4人で島に向かう。チラシは大量に撒かれていたらしく、出発当日の集合場所にはくりまんじゅうやモモンガ、シーサー、古本屋やラッコと大勢の住民が集まっていた。
船に揺られ無事に島に着いた一行は素敵な歌と共に熱烈に歓迎される。港から街に向かって屋台がズラッと並び、食べ物は全て食べ放題。夜にはキャンプファイヤーも催され、楽しい一夜を過ごす。
海辺で楽しんでいたちいかわ・ハチワレ・うさぎの3人は洞窟を発見し突入する。船でしばらく進むと、セイレーンと言う巨大な怪物に遭遇。セイレーンに襲われ気を失った3人だが、目を覚ますとセイレーンに介抱されていた。セイレーンは間違えて襲ってしまったとのことだった。セイレーンは仲間の人魚を島民に食べられてしまったことを怒っており、その復讐として島民を襲って食べているのだった。
解放された3人は宿に戻って眠りにつく。翌朝目を覚ますと島民達が騒いでいた。実は「簡単な討伐」も「報酬100倍」も嘘で実際には昨日ちいかわ達が遭遇したセイレーンを倒して欲しいとのことだった。
昨日セイレーンと会話を交わしたちいかわ達は話し合いで解決出来ないのかと疑問を抱く。しかしそんな疑問も束の間、セイレーンが島民を襲いにやって来る。ちいかわ達はセイレーンとの対決を強いられるのだが……
原作リスペクトの姿勢
人気漫画がアニメ化(映像化)される場合、原作には無い要素を突っ込んできたり、作者の意向を無視した形で作品が作られることが多々ある。なので原作厨と呼ばれるような「原作から入りました組」の人間は好きな漫画がアニメ化されるとなると背筋がピリッとするものだけど、原作厨の皆様。安心してください。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は原作リスペクトの姿勢で作られていました。
原作者直々に脚本を書いていて、しっかり映画制作に関わっていたのだと思う。謎改変は無かったし、無駄に芸能人を起用していないことに好感が持てた。
「めざましテレビ」でアニメ放送されている声のキャストはそのまま。セイレーン編でのみ登場するキャラクターの島二郎には実力派の声優さんが起用されていた。
夏休みと言うノスタルジー
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』はちいかわ達が南の島的なところにバカンス気分で討伐に行く……と言う設定。青い空、白い雲、青い海。南の島の開放的な空気。なんとなく南太平洋を彷彿とさせる雰囲気。
夏休みに公開する映画としては最高の物語と言って良いと思う。何しろ『ちいかわ』はキャラクターが可愛らしいものの内容的には大人向け。物語の冒頭で繰り広げられる呑気な光景は厳しい暑さの中で日々、仕事に家事にと奮闘している草臥れた大人の目には「夏休みっぽいなぁ……南の島で過ごすバカンスとか素敵だなぁ……」と単純に羨ましく映った。
そして島での歓待。祭りの夜店がずらっと並んで夏の思い出を掻き立てる。夏の夜……友達と騒ぎつつ美味しいものを食べて夜空を見上げる。花火が上がったりもする。
そしてキャンプファイヤーなどもあったりする。林間学校や臨海学校、サマーキャンプなどの光景を思い出した人が多かったのではなかろうか。
10年前、20年前、30年前の記憶を遡って欲しい。日本の夏は今ほど暑くはなかったので快適に過ごせた夜もあったのだ。
『ちいかわ』の中でもセイレーン編を夏休みと同時に公開したのは大正解だったと思う。
漫画では再現出来ない音楽の力!
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』で最も良かったのは音楽だったと思う。物語を邪魔しないBGMもそうだし、オープニング&エンディングはハチワレとちいかわの声優さんが歌っていたのも良かった。
特に心に残ったのは杉並児童合唱団による『今日の日はさようなら』の合唱。子どもの声での合唱からしか得られない栄養がある。そして歌詞が素晴らしい。「いつまでも絶えることなく 友達でいよう」とか「信じあうよろこびを 大切にしよう」だなんて『ちいかわ』の世界観を言い表すのに相応しい。
理不尽な世界で労働している小さな生き物達が生きていくには友達が必要だし、信じ合うよろこびがあるからこそ頑張れると言うものだ。そんな事を考えていたら自然と目頭が熱くなってしまった。
うさぎ・モモンガ・くりまんじゅうが繰り広げたラップ演奏も良かった。漫画でも描かれていたけれど、漫画のコマから音楽を完全に伝えることは出来ない。うさぎ、相変わらずの大活躍。ちいかわ&ハチワレとは少し違っているのがうさぎの魅力。
2人組を意識した作り
- ちいかわ&ハチワレ
- モモンガ&カニ
- くりまんじゅう&シーサー
- ヒトハ&フタバ
ちいかわの世界には性別と言う概念は存在しないようだけど、それぞれの組み合わせは友情と言うには濃過ぎる関係を作り上げている。観る人によっては夫婦かも知れないし、恋人同士かも知れない。シスターフッド的な関係だったりするかも知れない。
そんな2人組の中にあってラッコ、うさぎ、島二郎は1人で立っていた……あるいは、この2人組達を繋いでいた印象を受けた。
ちいかわ&ハチワレは確固たる信頼関係で結ばれているので安心して見ていられる感じ。モモンガ&かにはDV男とダメンズ的な感じ。くりまんじゅう&シーサーは酒クズ&前向きに尽くす妻(恋人)って感じ。ヒトハ&フタバについては闇が深過ぎるので改めて。
そもそも『ちいかわ』を楽しむ層は大人なので、この2人組のどこかに自分や友人を重ねることが出来たと思う。2人組の描写が丁寧に描かれていたのは「あえて」だろうなぁ~と推察した。
ヒトハ&フタバの罪と罰
さて。ヒトハ&フタバについて。ここは闇が深過ぎて辛い。まずは時系列の整理から。
- セイレーンと人魚たちの遊びに巻き込まれ、フタバが命の危機に陥る
- ヒトハが「人魚の肉を食べると永遠の命を得る」という伝承を思い出し、人魚を撲殺して煮付けにする
- フタバが「最初」に食べるヒトハの手によって、瀕死のフタバに人魚の煮付を食べる
- フタバは一命を取り留め不老不死となる
- ヒトハが「後から」食べる自分が不死(単三電池で動く体)になった事実と、ヒトハが人魚を殺した罪を知ったフタバは絶望する
- フタバは「自分だけが永遠に生きる寂しさ」から、ヒトハにも人魚を食べるよう迫りヒトハも煮付けを食べて永遠の命を得る
セイレーンと島の住人との間には「越えられない壁」がある。セイレーンは大きくて強く、島の住人は弱かった。それは現代日本でも問題となっている人間とクマの関係にも似ている気がする。
セイレーンは結果的にフタバを死に追いやってしまった。人間がアリを踏み潰してしまうくらいの感覚かも知れない。だけどやられた側からすると大問題。ヒトハは愛するフタバを助けるために人魚を殺してフタバにそれを食べさせる。
「じゃあ誰が悪者なのか?」って話。全員微妙に悪者だけど彼らの立場に立って考えてみると、その行動を非難することは出来ない。
世界に「タラレバ」は無いけれど、もしもヒトハが島の住人達に助けを求めていたならば違った結果を導き出すことが出来たかも知れないな……とは思う。ちいかわ達が島の住人達と共にセイレーンに向かっていったように。
ヒトハ&フタバは2人だけの関係の外に出ることはできなかった。だからこそセイレーンが島の住人を喰らい続けても名乗り出ることはしなかったし、ラストでも2人だけ島から逃げ出している。
ラストの解釈についての考察
さて。『ちいかわ』のセイレーン編は漫画でも『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』でも「最後はご想像にお任せします」のスタイルを貫いていて、明確な決着は描かれていない。
ちいかわ達が島を出た後、ヒトハ&フタバは島を逃げ出して無人島に到着。セイレーンは無人島に向かっている(であろう)描写が描かれるところで終わる。セイレーンは人魚を食べられた復讐として「永遠の命を得た者を檻に入れて暗い海に永遠に沈める」と言っている。
ここで気になるのは永遠に沈められるのは「2人なのか1人なのか?」ってところ。
個人的な意見だけど「2人で沈められるなら仕方ないか。まぁ悪いことしたし」って思える。しかし「1人を沈めて1人を無人島に残したなら、これ以上の苦痛の罰は無いよな」とも思ったりもする。いくらなんでも酷過ぎるけれど。原作者のナガノ先生の本当の設定はどうだったんだろう? ヒトハ&フタバがそれぞれ別の檻に入れられて沈められたイラストが存在するので、それが正解なのか?
考えてみたところで正解は得られない。もやもやした気持ちを抱えたまま今後も『ちいかわ』の世界を観測していきたい所存。
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』2026年の夏の思い出として気になる方は是非、劇場に足を運んで戴きたい。


