尊敬している読書の師匠が推薦しているのを見て以前から気になっていた1冊。図書館へのリクエストが叶って、やっと手元に届いた。
はじめて読んだいしいしんじの作品は、どうにもダルダルでイマイチ好きになれなかったけれど、この作品は良かった。
ハッピーな『シラノ・ド・ベルジュラック』という印象。
トリツカレ男
- 主人公ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。
- ジュゼッペハ何かに夢中になると、寝ても覚めてもその事しか考えられなくなる。
- ジュゼッペは風船売りの少女ペチカに恋をする。しかしペチカの心は哀しみに覆われていて…
感想
輪廻転生とかする訳ではないけれど世界観というかテーマ的には『100万回生きたねこ』と通じる部分もあるような。
ひとことで言うならば「人を好きになるって素敵だねぇ」というお話。
それ以外の説明は何もいらない……では感想にならないので、ちょっとだけ覚書。
主人公のトリツカレ男、ジュゼッペが、とても素敵だった。
1つのことに夢中になりはじめると、何かに取り憑かれたみたいに他の物が見えなくなるか「トリツカレ男」と呼ばれるようになったらしい。
1つのことに夢中になると他のことに目がいかない……っていう状況は、なんとなく分かるのでジュゼッペのお馬鹿さんぶりを私には笑うことは出来なかった。誰しも多少は覚えがあるのではないかとも思う。
ファンタジーというかメルヘンな作品なだけに、話はメチャメチャ無理があるが、嫌味なく読むことができた。
架空世界が上手く使われているように思った。ジュゼッペの純粋さを現代世界で表現するのは無理がある。
純粋過ぎるジュゼッペ君(なんとなく呼び捨てにできない感じ)の恋心に、思いがけずキュンとしてしまった。
殺伐としたあなたに……純粋でなくなっちゃったあなたに読んでもらいたいような1冊。
この作品とは関係ない話だけどジュゼッペ君に似た人(シラノではなくて)を知っているような気がして、読了後、やけに気になっていたのだけど、感想をかきはじめて思い出してしまった!
佐伯一麦の『一輪』の主人公だ。
彼はメルヘン世界の住人ではないので、ジュゼッペ君のような行動はとらなかったけど、恋心の性質が似ているような気がした。
綿菓子みたいな湯気のあがるパンを私も食べてみたい。
いいもの読んで、いい気分。本好きの友人にプレゼントしたくなるような気持ちの良い作品だった。いしいしんじの他の作品の感想も読んでみる