針女と書いて「しんみょう」と読むらしい。針女とは要するにお針子さんのことだ。
夏……終戦記念日の前後になると、なんとなく読みたくなって、つい手にとってしまう1冊。
第二次世界大戦の悲劇を女の視点から書いた小説で、なかなか上手い。
針女
死にに行く男が、愛を打ちあけたら、銃後に残される女はどんなに困るだろう――
出征した帝大生の弘一が残した〈青春の遺書〉を胸に、針仕事に打ちこむ孤児の清子。やがて戦争は終り、弘一は復員するが、彼の性格は一変していた。
二人の愛の結末は? 愛も哀しみも針一本にこめて激動の時代を生きたひとりの女性の姿を通して、日本人が忘れてはならない戦争の傷跡を描く。
アマゾンより引用
感想
両親を早くに亡くし叔父夫婦に育てられたヒロインが主人公。
ヒロインの清子は職人の叔父に仕込まれて幼い頃から針を持ち、地味に真面目に控えめに生きるタイプで控えめ過ぎるところが、うっとおしくもあるのだが、ただ耐えるだけの女ではなく「芯が強い」というところがポイント。
清子ンの芯の強さと打たれ強さが良い味になっていて、物語自体は陰鬱なのに、それほど悲惨なイメージを与えないのだ。
前半は東京の下町の風俗が楽しい。会話のテンポが良いので、いっきに読めてしまう。
特に職人気質の三五郎は愛さずにはいられない魅力的な人物として描かれている。
そして主題になってくる後半。ヒロインが想いを寄せていた従兄が出征してからの話は戦争を知らない世代にも「あぁ、こういうことってあるのかも知れない…」と思わせる筆の力に満ちている。
「戦争なんて行きたくないのに戦争に行かされる」という鬱屈。
従兄の残したノートに書かれた文章は綿密な取材と下調べがあってこそなのだろうなぁ……思う。作り物なのに妙な迫力がある。
そして戦場で人を殺し、復員したは良いが別人のようになってしまっていた……というくだりは、戦争の恐ろしさを外堀から浮かび上がらせていて、戦争が現実にあったこととして、読み手に迫ってくる。
正直なところ戦争を知らない世代にとって「戦場での戦い」はピンとこないのだ。
しかし「戦争で酷い目にあった人間が精神的に駄目になっちゃった」という話は、おぼろげながらも理解出来るような気がする。
筋書きとしては酷い話で、しかもハッピーエンドではないのだけれど「ヒロインはこれからも強く生きていくんだろうなぁ」と思えるあたりに救いがあるので、意外と後味は悪くない。
清子はあまりにも控えめ過ぎて個人的には決して好きなタイプの女性ではないけれど、その底力は見習いたい。
そして読み終えるたびに「なんだかんだ言って女性は強いな」としみじみ思う作品である。