『蒼のファンファーレ』は地方競馬を舞台に女性騎手と彼女を囲む人達の物語で『風の向こうへ駆け抜けろ』の続編にあたる。前作も面白かったけれど『蒼のファンファーレ』も面白かった。
私は女性なので主人公が「女性騎手」ってところに共感してしまう。JRAの騎手、藤田菜七子は「主人公の瑞穂の気持ちは、手に取るようによく分かりましたし、私の気持ちを代弁してくれているような部分もありました」と絶賛している。
蒼のファンファーレ
- 廃業寸前だった緑川厩舎が芦原瑞穂という女性騎手の真摯な姿勢と情熱で生まれ変わり、G1の桜花賞に挑戦して惨敗した翌年、場違いな超良血馬がやってきた
- 超良血馬の馬主はマスメディアでも有名な風水師。彼は厩舎を立て直すきっかけとなった馬(フィッシュアイズ)との勝負を望んでいた。
- そんなな中、緑川厩舎の面々はそれぞれに個人的な問題を抱えていた。母との関係に揺れる誠、初めての恋愛感情に戸惑う瑞穂、昔の恋人と出会ってしまう光司…
- 様々な出来事を乗り越えて、再び心が一つになった厩舎のメンバーは再び、G1。チャンピオンズカップを目指す。
感想
『風の向こうへ駆け抜けろ』に負けず劣らずの面白さだった。今回良かったのは主人公である瑞穂以外にも女性騎手が登場したこと。様々なタイプの騎手がいたけど、それぞれ「男性の多い業界で働く難しさ」を感じていて、なんかこぅ…胸が熱くなってしまった。
男性、女性に関わらず「異性が多い職場」で働くのは大変だと思う。例えば…男性看護師とか男性保育士とかもそうだ。謎の風習があったり、そもそもとして「この仕事は女(男)がやるもんじゃない」みたいな偏見を持っている人も多い。
主人公、瑞穂の場合。前作で緑川厩舎の人達から信頼を勝ち得たことでかなり仕事がしやすくなっていたけれど、他の女性騎手達はなかなか苦労していて「そりゃ、そうだよなぁ」って気持ちになってしまった。
今回は初っ端から緑川厩舎に良血馬がやってきたので「これはグイグイいく話か?」と思ったのだけど、なかなか上手くは進んでいかなかった。競馬って本当に難しい。小説の中でさえトントン拍子にはいかないのだ。その上、瑞穂をはじめ緑川厩舎のスタッフ達は個人的な問題を抱えてしまってメンタル面がボロボロ。上手くいかない匙加減が絶妙で古内一絵の物語を作る力は凄いなぁ~と感心した。
ネタバレを避けたいので詳細は書かないけれど物語は希望に満ちたラストになっていて「この人達のこれから先の物語も読んでみたい」と思ってしまった。一生、緑川厩舎の人達を応援したい…まである。
それにしても。今まで読んだ競馬小説にハズレが無いことが不思議で仕方ない。早い和真の『ザ・ロイヤルファミリー』も面白かった。
ただし、競馬を知らない頃に読んだ宮本輝の『優駿』については「面白くなかった」と書いているので、もしかしたら競馬をふんわりと知った今なら『優駿』も面白く読めるかも知れない。
これからは将棋小説と共に競馬小説もチェックしていきたい。