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知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて 松坂清俊 文芸社

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「パール・バックは知的障がい者の母だった」って事を知って以来、パールバックのことを知りたいと思い『母よ嘆くなかれ 〈新訳版〉』を読んだのだけど『母よ嘆くなかれ 〈新訳版〉』はパール・バック自身によって書かれたものだったので、第三者目線で書かれた物を読みたいと思い、手にとってみた。

『知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて』パール・バックの研究本で作者の松坂清俊は長年、臨床心理士として知的障がい児の施設で勤務し、三重大学名誉教授。

パール・バックの文学のベースを知るための教科書としては最高の1冊だと思う。

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知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて

ザックリとこんな内容
  • 『大地』の作者であるパール・バックの研究本
  • 激動の中国で半生を過ごしたことや、知的障がい者の娘を持った悲哀と苦悩。そしてパール・バックがお子なった社会的活動の現代的意味を探る

感想

パール・バック自身が書いた『母よ嘆くなかれ 〈新訳版〉』は良くも悪くも作者エッセイだったけれど『知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて』はパール・バックの一生を追っているので、文学的な意味でパール・バックを知るにはもってこいの1冊だと思う。

「知的障がい者の母パール・バック」とあるので、福祉よりの知識しか得られないのだろうと思っていたけど、そうでもなかった。パール・バックの作品は『大地』しか読んでいないけれど、パール・バックの人生を知ることで「なるほど…だから『大地』ではあんなエピソードが出てきたんだ」と納得する部分が多かった。

例えば…だけど『大地』の初代主人公の子どもに「白痴の娘」がいるし「せむしの少年」も登場する。彼らは社会を写した存在ではなくて、パール・バック自身が体感したところによる登場人物だったのだなぁ…と。

特に「白痴の娘」に至ってはパール・バックの娘を投影しているのか知的な障害はあるものの可愛らしい要望で愛らしい存在として描かれている。さらに言うなら主人公の愛人である元奴隷の梨花は主人公の死後も白痴の娘の世話をする流れになっていて、白痴の娘が不幸になっていないところも、パール・バックの願いが込められている気がした。

はじめて『大地』を読んだ時に「アメリカ人のバール・バックがどうして、あんなに鮮やかに中国の描写を描く事が出来たんだろう?」と不思議に思っていたけれど、パール・バックは幼少期から大人になるまで中国で暮らしていて、中国人とも親しくしていたとこのと。信頼できる使用人もいて、そのあたりの経験が作品に生かされていたようだ。

パール・バックが生活の本拠地をアメリカに移したのは知的障がい者の娘のためだったようで、もしかしたらそう言った事情がなければ、パール・バックは生涯中国にいたのかも知れないな…と思うだけに「そりゃあ『大地』が書けるくらいには中国を知っているよね」と納得させられた。

『知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて』では文学的な活動の他にも、後半生は福祉活動に力を入れていたことなども書かれているので、障害者福祉の歴史を知る…と言う意味でも役立つ作品だと思う。

図書館で借りて読んだのだけどパール・バックの『大地』を愛する人間として、そして障がい児施設で働く人間として手元に置いておきたいと思うものの、絶版本だし中古でも¥3,270となかなかのお値段なので躊躇しているところ。

それはそれとして『知的障害の娘の母:パール・バック ノーベル文学賞を越えて』はパール・バックの『大地』が好きな人の副読本としても素晴らしいし、障害福祉の歴史の一部を知る資料としても貴重な1冊だと思う。

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