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やさしい訴え 小川洋子 文春文庫

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小川洋子の小説は最近作以外は、ほぼ制覇している気でいたけれど『やさしい訴え』は何故か見落としていた。「まだ読んでない作品があったんだ!」と喜び勇んで手にとってみたのだけれど、好みのド真ん中で最高だった。

読後、調べてみたところ『刺繍する少女』の後に書かれた作品で『ホテル・アイリス』の前に発表されている。『ホテル・アイリス』は数ある小川洋子作品の中で、私が1番好きな作品。

小川洋子は作家歴が長くて作品数も多いのだけど、この頃の小川洋子の作品は乙女心と品の良いエロスが入り混じっている。『やさしい訴え』もまさにそれ。

『博士の愛した数式』以降のハートフル路線が好きな人の好みには合わないかも知れないけれど『妊娠カレンダー』でのデビュー以降、作品の中に必ず「毒」の要素を含ませてきたゴリゴリの小川洋子を楽しみたい人にはもってこいの作品だと思う。

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 やさしい訴え

ザックリとこんな内容
  • カリグラフィー作家である瑠璃子は夫の浮気と暴力から逃れるために実家が所有する山あいの別荘へ移り住み、チェンバロ職人の新田氏とその女弟子、薫さんとと出会う。
  • 瑠璃子と新田と薫…いつしか3人は独特で複雑な関係に縛られるようになっていく。

感想

ハーレクイン・ロマンスのように設定ありきの乙女ちっく小説だった。

ヒロインの瑠璃子はカリグラフィー作家。カリグラフィーとは、西洋や中東などにおける文字を美しく見せる手法のことで日本の書道と似たような感じ。お洒落なレストランのメニューに使われていたりするようなアレ。そもそもとして「カリグラフィーで食べていけるのか?」って話だけど、瑠璃子は眼科医の妻なのでそこまで稼ぎがなくてもOKなのだ。

そして彼女は夫の浮気に苦しめられていて気分転換に実家の母が所有している別荘に逃げ込む。別荘あるとか言う設定が既に庶民生活から掛け離れていて、そこがまた良い。

その別荘で知り合うのが苦み走った中年のチェンバロ職人の男と若く美しい女弟子。

苦み走った中年のチェンバロ職人と有閑マダムと若く美しい職人希望の女…そりゃあもう色々ありますよね(意味深)って訳です。普通の作家ならエロスと嫉妬と…みたいな下衆い展開になるのだけれど、そこは小川洋子。薄っぺらいエッチ小説ではない。

キスしたいとかセックスしたいとか言う単純な感情を越えた所有欲が描かれていて最高うだった。構図としては1人の男に2人の女…なので女同士で憎み合うかと思いきや、嫉妬を感じながらも相手の女に好意的な感情を持っているあたりが複雑な感じ。

猛烈に面倒くさい感情のやり取りが描かれていた。

ロマンティックさと面倒くさい感情のやり取りを上手いこと同居させてしまうところが小川洋子の凄いところだと思う。

ちなみに題名の『やさしい訴え』は実際にあるチェンバロ曲。実際に聞いてみて作品を読み返すと、さらに深く作品を味わうことが出来た。

乙女ちっくで残酷で精神的にエッチな小川洋子の作品を読むことはもう2度と無いだろうと思っていたので、作家として脂が乗っている小川洋子が書いた作品を今まで読まずにいた幸せに感謝している。満足のいく読書ができた。

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