『バッタを倒しにアフリカへ』はモーリタニアでバッタの研究をする日本人研究者によるノンフィクション作品。
エッセイでも紀行文でも研究所でもない。ちょい軽めのバッタ研究記って感じ。子どもの頃に読んだ、児童向けの『世界の伝記シリーズ』の前半部分…って言うのがしっくり来る。
これはオタク的に伝記小説を読みまくった私の個人的な意見だけど、大抵の伝記小説は真ん中あたりが最高潮に面白くて、後半は面白くないのだ。これは人の人生を最初から最後まで記録することの弊害。伝記の面白さはモデルの人が「最高にウェイウェイウェイしている瞬間」が面白いのであって、凋落したり年老いていく姿は面白くないのだ。
その点『バッタを倒しにアフリカへ』は最初から最後まで全部面白い。
昆虫が苦手で「どんなに面白くても昆虫はノーサンキューです」みたいなタイプの人にはオススメしないけれど、比較的万人受けする読み物だと思う。
バッタを倒しにアフリカへ
- バッタ研究者である作者のモーリタニアでのバッタ研究の日々を綴ったノンフィクション。
- フランス語が分からない状態で単身、モーリタニアに渡りバッタ研究に勤しむ日々を描く。
- モーリタニアの風土や、そこで暮らす人々との交流。そしてバッタ!
- 作者である前野ウルド浩太郎の「ウルド」はモーリタニアの高貴なミドルネームでバッタ研究所の上司から授けられたもの。
感想
私は理系方面の事にはあまり興味が無いけれど『バッタを倒しにアフリカへ』は楽しく読むことができた。研究書じゃなくて「バッタ研究者の日記」ってノリだったから読めたのだと思う。
とりあえず作者の前野ウルド浩太郎を応援しながら読んでいた。何か1つの事に打ち込み過ぎる人のことを「○○馬鹿」と呼ぶことがあるけれど前野ウルド浩太郎は紛れもなくバッタ馬鹿だと思う、そこまで大好きなことに人生を賭けて生きられるだなんて凄い。
とりあえずフランス語がよく分からないのに「フランス語の国で生活しよう」と思えるバイタリティが凄い。そしてモーリタニアの国と人に馴染んでいくスピードが半端ない。自分の大事な物に向かって、真っ直ぐに努力する人の姿は尊いなぁ。
そして前野ウルド浩太郎を受け行けてくれたモーリタニアの人達の懐の深さも素敵だった。「ウルド」と言うミドルネームを授けてくれた研究所の所長をはじめ、前野ウルド浩太郎を囲む人達はみな心が温かくて気持ちが良い。もちろん実際は辛いこともあっただろうし嫌な人もいただろうけど、そこは読み物なのだから突っ込むつもりはない。
それにしても。京大って凄いな! 学閥とかそういうところを越えて、前野ウルド浩太郎のような研究者を認めてくれて支援してくれるのだもの。なお京都大学の『白眉プロジェクト』は優れた研究者に支援していて、現在も定期的に応募登録提案書を受け付けている。
上手に説明できなくて恐縮だけど『バッタを倒しにアフリカへ』は読んでいて元気になれる作品だった。自然科学に興味がある人にも、そうでない人にも機会があけば手に取って戴きたいな…と思う。