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夏の花 原民喜 新潮文庫

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原民喜の『夏の花』は読んだことがないまでも、誰もが1度は題名くらい聞いたことのある作品だと思うのだけど、実際に読んだ人は少ないのではないだろうか?

私も広島の原爆をテーマににした作品…と言うと小学校の頃、学校の図書館で『はだしのゲン』を読んだくらいで『夏の花』を読もうと思った事はなかった。さらに言うなら『はだしのゲン』のインパクトが強すぎて「原爆物は怖いから読みたくないな」って気持ちが強くて、この歳になるまで『夏の花』を読もうと思わなかったのだ。

ところが先日、アマゾンオーディブルで『蟹工船』を聞いてみて「文学史に名を刻む作品って案外読んでいないな」って事に気が付いたので、今年はオーディブルでちょくちょく追っていこうと思ったのだ。

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夏の花

ザックリとこんな内容
  • 現代日本文学史上もっとも美しい散文で、人類はじめての原爆体験を描き、朝鮮戦争勃発のさ中に自殺して逝った原民喜の代表的作品集。
  • 『夏の花』『廃墟から』『壊滅の序曲』は「夏の花三部作」と呼ばれていて原民喜が自身の被爆体験を記録した「原爆被災時のノート」がもとになっている。

感想

『はだしのゲン』が好きな人には申し訳ないけれど、小学校の図書館に『はだしのゲン』を置くのって、どうなのかな…と『夏の花』を読んで気づいてしまった。

『はだしのゲン』は漫画なのでグロい感じがダイレクトに伝わってくる云々はさておいて、言い方は悪いけれど全般的に下品なのだ。

思えばこうの史代の漫画『夕凪の街 桜の国』で描かれた広島や広島の人達は決して下品ではなかった。

『夏の花』は美しい文章で描かれているので原爆の残酷さを表現しながらもグロい感じは全くしない。『はだしのゲン』で「原爆=グロい」と言う刷り込みを受けてしまった私は「こういう表現もあるんだ!」とビックリしてしまった。

『夏の花』の主人公「私」工場を経営する実家で親族と暮らしていて「女中」を使うような家の人間なので、庶民の生活を描いた『はだしのゲン』と『夏の花』を較べるのはどうかとは思うのだけど。

グロい表現を使わなくても原爆の残酷さは十分表現出来ていたし心に迫ってくるものがあった。

特に心に残ったのは『廃墟から』のラスト。

見知らぬ人から挨拶されるのは、何も槇氏に限ったことでないことがわかりました。実際、広島では誰かが絶えず、今でも人を捜し出そうとしているのでした。

『廃墟から』より引用

原爆以降「誰かが絶えず、今でも人を捜し出そうとしている」という事実は心に迫るみのがあった。「もし自分が同じ体験をしたら?」とリアルに置き換えてみると、やはり私も行方が分からなくなった…生死さえ不明の家族や友人に似た人がいたら、ずっとその人を探してしまう気がする。

『廃墟から』のラストを読んで、相手の安否を気遣う人の優しい気持ちや、たぶん死んでしまっているのだろう人のことを思うと言いようのない哀しい気持ちになってしまった。そんな作品を書いた原民喜は素晴らしい文学者なのだと思ったし「これは文学史に名前が残るはずだ」と納得した。

『夏の花』は文学史に残るだけでなく、もっとたくさんの人に読んで欲しい作品だと思ったし、世界の美しさや哀しみを淡々と表現した原民喜は凄い作家なのだと確信した。

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