『観音様の環』の作者である李琴峰は『彼岸花が咲く島』で第165回 芥川賞を受賞している。受賞作は読んでみたものの、個人的にはイマイチ受け付けないタイプの作品だった。
…とは言うものの、アマゾンオーディブルに新作が登場していたので「聞くくらいなら聞いてみるかな」と聞いてみたのだけど驚くことに2022年現在『観音様の環』はAmazonAudibleとKindleで公開されているだけで、紙の本として出版されていない。
昨今の出版物は紙の本で出さずに電子書籍やWEB公開のみ…ってパターンがあるのは知っていたけれど、芥川賞作家の作品でも紙の本として出版されないとは驚いた。
今回は盛大なネタバレ込の感想なのでネタバレNGの方はご遠慮ください。
観音様の環
- 主人公のマヤは台湾人の母と日本人の父の子として瀬戸内海の島で生まれた。
- マヤは離島の狭い人間関係や排他的な空気、暴力的な父親、そして母親からの過度な期待と支配から逃れるように、瀬戸内の島か東京に出たマヤは新宿二丁目で生きる道を見出す。
- マヤは台湾人の恋人ジェシカと自分の母の故郷でもある台湾へ渡り結婚する。
- 彼女の故郷であり、母の故郷でもある台湾へ渡る。
- マヤはジェシカから旧暦の大晦日に親族が集まる年夜飯に行こうと誘われるのだが…
感想
『彼岸花が咲く島』を読んだ時、作者が中国系の人(その時は台湾だと知らなかった)だってことは名前から知っていたものの、レズビアンだった…ってことは知らなかったので「なるほどなぁ」と腑に落ちた。
『彼岸花が咲く島』にも同性愛的な香りのする描写があったけれど、同性愛をテーマにした作品ではなかったので特に何も思わなかったため、予備知識ゼロで『観音様の環』を聞いて「えっ?そうだったの?」と驚いてしまった。
私は中山可穂をはじめ、同性愛を扱った作品が好きではあるものの『観音様の環』については「言いたいことは分かるけれどこの描き方はどうなの?」って気持ちになってしまった。
物語のベースは1人の女性の成長と家族の問題…って感じなのだけど、そこにセクシャリティの問題も盛り込んだのは失敗だった気がする。女性の成長物語としては評価したいし、物語の流れは嫌いじゃないけど、なんだか惜しい感じの構成になってしまっているのだ。
主人公のマヤは台湾人との母と日本人の父を持つ女性。瀬戸内海の島で育ったものの、頭の良い子で自力で大学に通っちゃうようなある意味意識高い系。同性の恋人と共に台湾へ渡り同性婚を果たす。と、この流れは悪くない。むしろ好き。
だけど父の暴力(性的な意味での)を盛り込む必要は無かった気がする。あんな構成で書いてしまうと「ははぁ~ん。やっぱり男を愛せない女ってのは、男性恐怖症からそうなっちゃうんだよな」と思っちゃう人も少なからずいると思うのだ。
作中でせっかく家族とか男性による支配等の意見を書いているのに、どうして誤解を産むような書き方をしちゃったんだろうか? 男性優位の社会や男性の横暴云々とセクシャリティの問題をごちゃ混ぜにした結果「男性が嫌いだから、男性から虐げられるから女性同士で」みたいな印象になってしまっている。
私も女性なので女性の生き方や家族のありかたについては自分自身の問題として考えたいのだけど『観音様の環』はコレジャナイ感が凄かった。
『観音様の環』は表現方法を間違ってしまっただけなのか、それとも作者の李琴峰が私にはちょっと受け入れ難いタイプなのかはこの1作だけでは断定し難い。気が向いたら別の作品を読んでみようかとは思うものの、とりあえず『観音様の環』については「好きじゃない」としか言えない。