予期せぬ妊娠の末、中絶できるタイミングを逃してしまった女子高生の物語で「長編ミステリー」として売り出されていたけど、まったくもってミステリーではなかった。
謎解き要素もアッと驚くどんでん返しも無くて癒やし系か、そうでなければ社会派の作品…って感じ。作品的には悪くなかっただけに「どうしてミステリーって帯付けて売り出したの?」と出版社サイドに聞いてみたい。
なのでミステリーを読みたい方に『月の光の届く距離』をオススメすることは出来ないけれど「ミステリーではない作品」を求めている人…特に子どもや若者を取り巻く問題について興味のある人なら面白く読めると思う。
今回ネタバレ(ミステリじゃないけどオチの部分)を含む感想になるので、ネタバレNGの方はご遠慮ください。
月の光の届く距離
- 主人公の美優は予期せぬ妊娠をしてしまった女子高生。
- 家から追い出された美優は歌舞伎町で千沙と名乗る女性に助けられ『グリーンゲイブルズ』と言うゲストハウスで働きながら出産することになる。
- グリーンゲイブルズでは、血の繋がりのない人間が1つ屋根の下で家族として生活していた。
感想
女性にとって「予期せぬ妊娠」って深刻な問題だと思う。幸い、私は経験がないけれど、娘には中学生になった時に念押ししている。
- セックスするなとは言わないけれどコンドーム付けてもらいなさい。
- コンドームつけるの嫌がる男はクズ認定でOK。
- 最悪、妊娠したら大変なのは自分だから覚悟しておきなさい。
- 未成年の場合、男は逃げる率が大変高い。
- でも万が一妊娠したら親に相談するように。
- 中絶出来なくて産むことになっても、お母さんが死ぬ気で育ててあげるから変な気は起こさいで安心して産みなさい。
……と。私が娘に言った事が良いかどうかはさておき。未婚で妊娠した場合、男性が逃げる率が高いのは本当のこと。そして『月の光の届く距離』の美優も高校生で妊娠して、彼氏から逃げられている。
ただ、美優の場合は親の支援を受けられず「出ていけ」と追い出されてしまったのが悲劇だった。闇落ち寸前のところで千沙という女性に拾われ、ゲストハウスで働きながら出産することになる。
美優が預けられたゲストハウス『グリーンゲイブルズ』は血の繋がり人達が家族のように暮らしているのだけど、それぞれ虐待だったり複雑な過去を持った人達…って設定だった。「壮絶な過去」と書いてしまえばそうなのだけど、児童福祉系の施設で働いていると「あるあるな話だなぁー」って感じで、ちょっとリアルな感じではあった。
ただ「里親」とか「養子縁組」は『月の光の届く距離』で書かれているほど簡単なものじゃないので、そういう意味においてはリアリティがなかった。まぁ、だけど小説だし「イイハナシダナー」を書くのが目的だろうから、そこは敢えて突っ込まないでおく。
『月の光の届く距離』で私が最も良かったと思うのは「予期せぬ妊娠をした女性が子殺しを選ばなくても良い支援をした」ってところ。
世の中には予期せぬ妊娠末、赤ちゃんを殺してしまった…なんて事件がちょくちょくあるけど、あれは女性だけの責任ではない。妊娠させた男性や周囲の人の助けがあれば、最悪の自体にはならなかったはず…と毎度思う。
そして虐待等を受けた人達が幸せになれるよう試行錯誤する姿も素敵だと思った。現実はあんなに上手くはいかないだろうけど「そうだったら良いのになぁ」とは思うし「そうあって欲しい」とも思った。
しかしアレだ。ラストの流れはちょっと心に引っ掛かるものがあった。
主人公の美優は産んだ子を自分1人の力で育てていく自信がなく養子に出す決断をするのだけど、そこで美優を追い出した家族が颯爽登場。「もう1度家に戻って、学校に通いなさい」と親子が和解。
「追い出しておきながら、面倒な赤ん坊が娘のお腹からいなくなったら戻って来いとか、どういう了見なんだよ?」
私は親目線で読んでしまったので美優の親の手のひらクルーに腹が立って仕方がなかつた。だったら最初から親元で出産させたら良くないか? そして育てられないなら責任を持って養子に出せば良いのでは? 面倒くさいことを全部他人に丸投げしといて、どの面下げて出てくる?
……と。オチで猛烈に腹立たしい展開があったのだけど、それ以外はおおむね納得のいく展開だったし、美優が産んだ子を養子に出す決断をしたこと自体は良かったと思う。