『檸檬先生』は小説現代長編新人賞、受賞作。作者は18歳。史上最年少受賞とのことで話題になっていて「そのうち読もうかな」と思っていたら、いつの間にか娘が自分で購入していて「お母さんも読んでみたら?」と言うので読んでみた。
18歳、新人作家のデビュー作。作品全体から若さが溢れていてフレッシュ感が凄い。賛否はあると思うのだけど、こればかりはベテランには出せない味だと思う。
檸檬先生
- 私立小中一貫校に通う小学三年生の私(少年)は、音や数字に色が見えたりする「共感覚」を持ち、クラスメイトから蔑まれていた。
- ある日、私は音楽室で中学三年生の少女と出会う。私の目には 檸檬色に映る彼女も共感覚者だった。私は彼女を「檸檬先生」と呼び、檸檬先生は私を「少年」と呼ぶことになった。
- 少年は檸檬先生と過ごすうちに少しずつ成長していくのだが……。
感想
主人公の「私」は共感覚の持ち主。共感覚を持っていない人間からするとイマイチ分かり難いところではあるけれど、まぁそこについては「とりあえず読んでみれば?」って感じ。ちなみに共感覚は作者の妄想ではない。
例えば…有フランツ・リスト(ピアニスト・指揮者)がオーケストラを指揮したとき「ここは紫に」など、音を色として表現した指示ばかり出し、団員を困惑させていた…なんてエピソードがある。
共感覚云々はさておき。生きていく上で大多数の人と違った要素がある人は大変生き難い。主人公の「私」も共感覚を持て余していた上に、複雑な家庭環境だったため、学校で居場所がなく鬱屈した日々を送っていた。
そんな時に自分と同じ悩みを持つ年上のお姉さんの登場である。ボーイミーツガールである。ドラマが生まれない訳がない。
悩める若人の青春と成長。文学の大きなテーマの1つだと思うし、よく描けていたと思う。主人公は檸檬先生から多くのことを学び、成長していく。主人公の成長は読んでいてとても気持ちが良かったし「若いってそう言うことよね」と応援したくなってしまった。
一方、主人公に大きな影響を与えて檸檬先生は成長することができなかった。ハッキリ言って救いがない。
檸檬先生は「共感覚」以外にも、もう1つ特殊な要素を抱えていたため主人公よりも生き難かったとは思うのだけど、あのラストはイマイチ好きになれなかった。まぁ青春小説のテンプレ…と言ってしまえばそうなのだけど。
作品として好きか嫌いかを問われると「微妙…」としか答えられないのだけど、18歳でこれだけ書ける作家さんが世に出てくれたことはワクワクするし、これからの活躍に期待したい。