作者の書くお話は「ちょっと下品なエロが多いけど馬鹿馬鹿しくて面白いから好き」と思っていたのだけれど、今回は「それ以外」の作品を読むことができて興味深かった。
9つからなる短編集で、うち8作は、いつもと同じパターンだったが、トリを飾った作品は「これ、本当に森奈津子?」と首を傾げてしまうような作風だったのだ。
シロツメクサ、アカツメクサ
仲睦まじい三つ子の美少女たちには、誰にも言えない秘密があった。劣等感、欲望、嫉妬…噴き出した暗い感情が招いたおぞましい惨劇とは(表題作)。
少年は、出入りを禁じられた離れで一人の女に出会う。誘われるまま初めて知った快楽。封印された一族の禁忌が、その扉を開く―(「一九七七年の夏休み」)。
極上のエロスが薫る、妖しく美しく不思議な九つの物語。
アマゾンより引用
感想
うち8作は、いつもと同じようなノリではあったけれど、それはそれで面白かった。森奈津子はきっと「性と身体」について飽くことなき探求心を持った人なのだろうなぁ。
下品なことを書いていても、不思議と嫌悪感を覚えない。「女性の筆だから」という訳ではなくて、根っこが真面目だからじゃないかなぁ……と思う。
小さい子供が自分の身体に興味を持って、あれこれ触っているような、そんなイメージがあるのだ。決して最後までドロドロにしてしまわないところも良いと思う。
そして問題の「いつもと違うさ作品」について。『語る石』という題名。
エロティックな要素など、ひとかけらも見当たらない作品だった。少しだけネタバレするので、苦手な方は以下を読まずにお願いします。
少女と「人間の言葉が分かる石」の物語。
主人公の少女は父親の書斎で、人語を解する不思議な石を見つける。石はウンチクを語るが大好きで、少女は石から色々なことを学んでいくのだが、その石の正体は戦死した祖父の意識が石に乗り移ったものだった…という話。
ありがちと言えば、ありがちなネタだが、説教臭くなくてかなり良い。
萩原浩あたりが書いていたら、きっと臭くなり過ぎていたんじゃないかと思う。会話の面白さと、情に訴えかけるバランスが秀逸だった。かなり気に入った作品である。
馬鹿馬鹿しいエロティックなコメディも良いけれど『語る石』のようなタイプの話を、もっと読んでみたいと思った1冊だった。