かの有名な「サド裁判」を下敷きにした法廷サスペンスである。
「裁判」といっても、サドが入所している精神病院でのことなので、現代の裁判とは随分と様式が違うのだけれど、告発する者、される者、追求する者、弁護する者達が、それぞれ自分の意見を述べていく形式で「裁判」という感じだった。
ちょっと普通の小説とは形式が違うので、新鮮な感じで取り組めると思う。
侯爵サド
「私の顔の上に座っておくれ」十一歳の恋人マドレーヌに侯爵サドは言った。
シャラントン精神病院で放縦な生活を送るサド。病院での治療を主張する理事長クルミエと、牢獄へ送ろうとする院長コラール。サドは、はたして狂人か犯罪者か性の先駆者か。
その生涯と驚愕の真実を法廷サスペンスの形で明らかにする。
アマゾンより引用
感想
サドに関する研究書や小説は、様々な人の手によって書かれていて、いささか手垢のついた感があるのだが、この作品は中でもレベルが高いと思う。
藤本ひとみが女性であることの強みが最大限に発揮されていたのではなかろうか。
途中、中だるみした箇所もあったけれど、ラストのオチは天晴れだった。こういう展開にもってくるとは、まったく想像もしていなかっただけに。たぶん作者し心底SMを愛しておられるのだろう。
プレイという意味のSMではなくて、精神的な部分のSMを。心底感服してしまった。
熱い思いを書き綴りたいのだけれど、思いっきりネタバレになってしまうので書けないのが残念でならない。
サド裁判を通して、サドだけでなく周囲を取り巻く人間達が生き生きと描かれていたのは素晴らしいと思った。
はじめは、ぼんやりとしていた人物像が、物語がすすむにつれてハッキリとしてくる構成は流石である。
似たような事件の話ばかりなので(事実だから、どうしようもないのだが)読んでいて、だるくなってしまった部分はあったけれど、なかなか良く出来ていたと思う。
「終わり良ければ全て良し」ではないけれど、この作品の素晴らしさはオチの素晴らしさであると言い切っても過言ではない。
充分満足した1冊だった。