最近は『美女入門』などが有名で「食べるのが大好き」というイメージが薄くなってきている林真理子だが、こういう作品を読むと「食」への執着の強い人なのだなぁ……とあらためて感じた。
私自身が食べること大好きなので『美女入門』よりも面白く読んだ。
食べるたびに哀しくって…
色あざやかな駄菓子への憧れ。初恋の巻き寿司。心を砕いた高校時代のお弁当。学生食堂のカツ丼。アルバイト先のアンミツ。そしてフグとラーメンについての一家言。
まだ日本中が貧しかった懐しの昭和30年代から、飽食気味の今日まで、移り変わる時代相を織りこんで、「食べ物」が点在する心象風景をリリカルなタッチで描いた青春グラフィティ。
アマゾンより引用
感想
食べ物エッセイとひとくちにいっても色々なタイプのものがあると思う。
文章のタイプではなくて、作者の持つ食への方向性という意味で分けるならば、大まかに2つ。
「1つは食べるのが好きだし、作るのも好き。美味しいものを食べるためなら労力は惜しまない」というタイプ。このタイプの先鋒はなんと言っても壇一雄。
そしてもう1つのタイプは「食べるのは大好きだ。食は快楽である」というタイプ。林真理子はどちらかと言うと、こっちのタイプだとお見受けした。
食べ物エッセイはどんなタイプの物でも好きだが、個人的には前者の方がより好きだ。
このエッセイで面白かったのは、林真理子と母親の関係。作者の母上は『本を読む女』のモデルになった人らしく、すんごく真面目で食べることにも真面目過ぎるくらい真面目な人であったらしい。
そんな人の教育を受けた娘が、食べる物に、ああだ、こうだと理屈を並べているというところがなんとも珍妙で面白かった。
サラサラと読めて面白い作品だったのだが、ちょっと食にた対して浅ましいような、下品なような印象を受けてしまった。
ガツガツしていると言うのか、それとも高慢な感じがあると言うのか。テンポが良くて、目のつけどころも楽しいのに、ちょっと残念に思った。
作品の中で食べてみたいと思ったのは、ソーストンカツの丼。トンカツはそれほど好きではないのだけれど、文章を読んでいると、ものすごく美味しそうに感じてしまった。
何度も読み返したいほどの作品ではなかったけれど、息抜きに読むには良いかも知れない……と思った1冊である。