久しぶりの桜木紫乃。前作の『ふたりぐらし』が良かったので、期待して手にとったのだけど、ビックリするほどイマイチだった。
桜木紫乃はどちらかと言うと多作な作家さんなので、たまに「どうしちゃったの?」って思うほどイマイチな作品が混じっているから要注意だ。
何だかんだ言って桜木紫乃は好きだけど、これはアカン。
残念としか言いようのない作品なので、良い感想は書けないのでご了承ください。
光まで5分
北海道から流れ流れて沖縄にやってきたツキヨは、那覇の路地裏で身体を売っている。
客に教えてもらったもぐりの歯医者を訪ねたツキヨは、元歯科医の万次郎、同居人のヒロキと出会った。ヒロキと気が合ったツキヨは、万次郎たちと暮らすことにするが――。
アマゾンより引用
感想
まず、何を血迷ったのか物語の舞台が北海道ではなくて沖縄なのだ。
桜木紫乃と言うと北海道を舞台にした作品のイメージが強い訳だけど、ここへ来て沖縄を持ってきている。
いや…何も「北海道以外を舞台にしちゃ駄目!」なんて偏狭な事を言うつもりはない。設定がバッチリ生かされていれば文句はないけど、お世辞にも生かされているとは言い難い。
ヒロインは北海道出身の女性。子どもの頃に義父から性的虐待を受けて育ち、身体を売りながら行き当たりばったりの生活をしている。
沖縄に流れ着いたヒロインは那覇市内で客に教えてもらったもぐりの歯医者を訪ね、そこで2人の男と知り合う。
元歯科医の万次郎と、背中にモナリザのタトゥーのあるヒロキ。2人共訳あり人間で、訳あり人間が集まって「ケセラセラ」な生活がスタートする。
なんと言うか無頼派の作風を彷彿とさせる退廃的な空気感があった。
読んでいてとにかく気怠いし、救いがない。ラストは「それでも生きていくのです」と言うようなスッキリしない畳み方をしている。
桜木紫乃は今までも退廃的な雰囲気の作品も書いているので「桜木紫乃らしからぬ」と言うほどではないのだけれど、今までの作品とこの作品には大きな違いがある。
この作品には「女の情念」が感じられないのだ。
桜木紫乃の真骨頂は女の情念を丁寧過ぎるほど丁寧に描写していくところだと思う。
性愛だったり、鬱屈だったり、義憤だったり、嫉妬だったり。
とにかく女の気持ちを書かせたら桜木紫乃は天下一品なのだけど、残念ながらこの作品の中でヒロインの気持ちはさほど描かれていない。行き当たりばったりの生き方をしている設定なので仕方のない部分もあるかと思うのだけど、それにしても雑過ぎる。
そして最初にも書いたけれど、沖縄を舞台にしている意味がイマイチ伝わってこない。「ユタ」とか「おばあ」とか「泡盛」を出せば沖縄…って訳じゃないと思うのだけど。
那覇の店じゃなくて、札幌の店でも全く問題がなかったように思う。
桜木紫乃…忙し過ぎるんだろうか?
あまりにも、やっつけ感のあふれる作品だったので腹が立つより心配になってしまった。多作も悪くはないけれど、身体を大事にして元気に作品を書いて戴きたい。次の作品に期待。