第二次世界大戦、終戦直後の仙台を舞台にした長編。
熊谷達也は戦争を知らない世代のはずなのに、よくぞこの時代を臨場感たっぷりに描いたものだと感心した。
特に、主人公が家族を失う空襲の場面は秀逸だと思う。あれを読んで何も感じない人はいないんじゃなかろうか。
「恐ろしさ」と「悲しさ」でグエエッっとなってしまった。胸がキュッっとなった…なんてものじゃなく「グエエッ」ってなってしまったのだ。それくらい凄い。
いつかX橋で
空襲ですべてを失った祐輔は、仙台駅北の通称X橋で特攻くずれの彰太と出会う。
堅実に生きようと靴磨きを始める元優等生と、愚連隊の旗頭となり不良街道まっしぐらな正反対の二人。
お互い反発しつつも、復興の街で再スタートを共にする。そして、いつかX橋の上に大きな虹を架けようと誓い合う。
不遇な時代に選ばれてしまった人間に、何が希望となり得るのか―心震える感動長編。
アマゾンより引用
感想
糞真面目で融通のきかない主人公の生き方にとても好感が持てた。
世の中には真面目に生きている人を馬鹿にする風潮があるように思うけれど、そんなことは無いと私は思っている。むしろ「真面目で何が悪い?」と問いたいくらいだ。
読んでいると、真面目すぎてヤキモキしてしまったりもしたけれど、彼のような生き方は嫌いじゃない。
一方、主人公の親友は主人公とまったく違ったタイプの人間で、これもまた良かった。
主人公が「誠実にコツコツ生きる」タイプの人間ならば、親友は明らかに「太く・短く」というタイプ。これもまた1つの典型的な生き方だと思う。
主人公と親友の友情も良かったけれど、主人公の恋もまた良かった。黄金パターンではあるけれど、主人公は戦争で肉親を失ったがゆえに娼婦に身を落とした少女に恋をするのだ。
これがまた、もどかしくて良かった。純情な恋っていい。
途中までは夢中で読んだものだが、話が佳境に入ったあたりから物語にのめり込めなくなってしまった。
ものすごい展開の話で、泣けるストーリーのはずなのだけど、ちっとも泣けなかった。「いったい、どうしてハマれないのだろう」と読後、首をかしげつつ、夫に「すごく面白いはずなのに、ちっともハマれなかった」と、あらすじを語って聞かせたら、夫がひとこと「読んでいないから分からないけど、携帯小説みたいだね」と。
夫の言葉は、すとんと腑に落ちた。
そう。後半に不幸を詰め込み過ぎなのだ。怒涛のように押し寄せてくる不幸の波。終戦直後ならアリってところだが、詰め込み過ぎてしまったがゆえに、1つ1つのエピソードが薄くなってしまっている。
ネタパレになるので書かないけれど、身悶えするであろうエピソードがサラリと流されていて、その苦悩が描き切れていなかった。実に惜しい。
途中までの面白さが尋常ではないだけに勿体ないとは思うのだけど、最終的にはイマイチ納得のいかない感が残ってしまった。
前半が良かっただけに、勿体なさに身悶えさせられた1冊だった。