『蕭々館日録』は読むのにすごく手間取ってしまったけれど、じっくり読むのに相応しい1冊だった。
大正から昭和にかけて活躍した文豪達が集う「蕭々館」は、本好きにはたまらない空間ではないかと思う。
芥川龍之介だの、菊池寛だの、特別出演として6歳児の三島由紀夫なんかが登場して、文学のことや文学者のことをダラダラ雑談している感じが洒落ていて、とても良かった。
蕭々館日録
- 「蕭々館」で夜ごとくりひろげられる、最後の「高等遊民」たちの幸福なひととき。
- 芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎―「大正」という時代に、青春を共にした三人の作家を描く長編。
感想
久世光彦の作品は「ひとり語り」が多いのだが「女語り」と「男語り」の2パターンある。
「女語り」においては、太宰を意識しているのかもしれないけれど、イマイチ乗り切れないところがあるので、私はもっぱら「男語り」の方が好きだ。
ちなみにこの作品の語り部は麗子という5歳児だった。
「ちぇっ。女語りか…」と思ったのもつかのま、この作品の女語りは、案外良かった。
いちおう5歳児という設定になっているけれども、年齢が年齢なだけに性を感じなかったのが良かったのかもしれない。
「性を感じない」というより私の超・私感的な感想からすると「麗子=作者」ではないかと思った。
九鬼(芥川がモデルの小説家)を語る麗子は、ませた5歳児ではなく成熟した大人なのだ。しかも女であって、女でない。
微細ではあるが男の香りさえ。芥川に恋する作者が麗子の口をかりて語ったのではないかと思った。
作者が男色家だと言う訳ではないのだが、作者の「男の好み」はなんとなく分かったような気がする。
それまでの作品でも感じるところはあったのだけれど、この作品を読んで「ここだぜ」というポイントを発見した。私とちょっぴり趣味が似てるかも。
実生活で好きなタイプ……っていうのではなくて私が「うっかり憧れてしまうタイプ」と、作者の好みの男は、とても似ている。だから私は作者の書く文章が好きなのかも知れない。
それにしても蕭々館に集う男達は、それぞれに素敵だった。
特に気に入ったのは、大人ばかりで隠れん坊をする場面。議論したり、酔っ払ったり、泣いたり、笑ったり……生き生きとした男達の魅力にやられてしまった。
もっとも、それ以上にやられてしまったのは九鬼(芥川)の色男っぷりだったのだが。
久世光彦の作品だとベスト3に入るかも……と思える1冊だった。