予備知識ゼロでなんとなく手に取った本なのだけど第157回芥川賞受賞作とのこと。
会社の出向で岩手県に移り住んだ「わたし」と同僚の日浅の物語。釣りを通して「わたし」は日浅と親しくなる。
そして「岩手県」と聞いただけで「あっ。察し…」となった方もおられるかと思うけれど、3.11ネタもちゃっかり絡んでくる。
影裏
- 主人公は会社の出向で岩手の地に移り住む。
- 岩手での暮らしの中で、ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
- 釣りをした日々に募る追憶と寂しさ…
感想
物語の「掴み」はけっこう好きだ。岩手県の自然の描写や「わたし」が暮らしている街の描写から釣りの場面がはじまる。
地味だけど、なんか良い。
思わずブラッド・ピット主演の名作釣り映画『リバー・ランズ・スルー・イット』を連想してしまった。
私自身は子どもの頃に親に連れられて釣りに行った事はあるけれど、釣りの魅力は全く分からないし、やってみたいとも思わない。
それなのに何故か釣りをテーマにした読み物や映画は嫌いじゃない。釣りにはなんとなく男の浪漫的な物を感じてしまうからかも知れない。
「主人公と同僚の日浅との男の友情みたいな話かな~」と思っていたら、途中から様子がオカシクなってきた。
主人公は男性だと思い込んでいたのに、どことなく女性的な描写が入ってくるのだ。行動だったり心情だったり。
「ああ、そうか。釣り人だから男性だと思い込んでいたけど、主人公は女性だったんだ。そう言えば下の名前は出てきてないし」と納得して、頭を切り替えて読み進めた。
ところが。主人公が男性だと分かる文章が登場。「えっ?男性だったの?」と混乱しながら読み進めたところで主人公が同性愛者だと言うことが分かった。
この作品を予備知識無しで読んだ人達は最初から主人公が同性愛者の男性だと分かったんだうろうか?
それとも私が馬鹿なのか。作者はあえてミスリードを狙ったのか?
途中まで設定がよく分からないまま読み進めてしまったので途中から話が盛り上がっていくのに全く気持ちがついていけなかった。
この作品。すごく惜しい。
静かな描写とか、主人公が自分の気持ちを持て余しているのに空回りしちゃってる。
ちょいちょい「上手いなぁ!」と思う部分があるのだけれど同性愛者の愛を描きたかったのか、日浅って男を描きたかったのか、家族関係について描きたかったのか、3.11について描きたかったが全く見えてこないのだ。
素敵な要素はけっこうあるのにただの雰囲気小説で終わってしまっている。
この作品がデビュー作と言うことなので、今後伸びる作家さんなのかも知れないけれど「これが芥川賞か…」と微妙な気持ちになってしまった。
とりあえず気が向いたら作者の2作目は読んでみようと思う。