加賀乙彦と津村節子の対話本。どちらも好きな作家さんだけあって読み応え抜群の1冊だった。
題名から想像出来るけれど、この作品のテーマは「伴侶の死」だ。
そして、それを作家である両氏が語りあうことで色々な事が見えてくる。加賀乙彦、津村節子、吉村昭が好きな人なら目を通しておいても良いと思う。
作家本人と作品は別物ではあるけれど、作家を知る事で作品を読む時の助けになる場合もある。色々と考えさせられる事が多かった。
加賀乙彦と津村節子の対話 愛する伴侶を失って
夫である作家吉村昭を闘病の末亡くした津村節子と夫人を突然に亡くした加賀乙彦。80歳を目前に長く連れ添った最愛の伴侶を失った人気作家ふたり。
最期の看病をできなかったと悔いる妻と、神は存在し妻と天国で再会できると信じる夫。
夫と妻の立場から辛く苦しい胸の内と、それをどう乗り越えていくかを語り合う。
伴侶を偲び、夫婦という不思議なものを想い、生と死について考える心にしみる対談。
アマゾンより引用
感想
まずは加賀乙彦関連。加賀乙彦はクリスチャンなので生死観は彼の中で確立されていてるのかと思っていたけれど、意外にもそうでなかったって事が面白かった。
相田みつを風に言うなら「分からなくたっていいじゃない。人間だもの」ってところだろう。
死に対する感覚が極一般的な人達と変わらないのもさることながら、クリスチャンでありながら仏教のお寺にお墓があったりするあたり、日本人的で微笑ましいと思った。
クリスチャンであることと、幼い頃から根付いた感覚は別物なのだなぁ……と。
お墓の話などは、親戚のおじいさんの話を聞いているような錯覚に陥ったほど。こんなに頭の良い人でも、悩んだりするのだもの。そうでない人が悩むのは当たり前だなぁ……などと思ったり。
津村節子関連では、吉村昭の闘病から亡くなるまでの事が書かれていて、吉村昭ファン必見。
「作家でなくて妻として最後に向き合えなかった事に悔いが残る。もしやり直せるなら作家をやめる」と語っておられるのが印象的だった。
あんなに素晴らしい作品を書く作家さんなのだから「私は骨の髄まで作家!」ってタイプの人だと思っていたので、これもまた意外だった。
そして津村節子の夫、吉村昭は私が敬愛して止まない作家さんなのだけど、妻の口から語られる彼の話を聞くと「作家としては素晴らしいけれど一緒に暮らすのは無理。
なんて面倒くさそうな人なんだ」と思ってしまった。
これは吉村昭以外にも言えるのだけど、私が猛烈に好きな男性作家さん達は不思議と「人間として無理なタイプ」である事が多い。
遠藤周作、檀一雄、西村賢太。どの作家さんの作品も猛烈に好きだけど、個人的にお付き合いはしたくないタイプだ。
それはそれとして、この作品の見どころは、加賀乙彦が宗教と死後の世界を信じているのに対して、津村節子は信じていないところにあると思う。
方向性が全く違う2人なのに古い日本の教育を受けてきたせいか、死生観にしろ、お墓に対する思いれにしろ、私からすると「どこにでもいる、ごく普通のお年寄り」って印象を受けた。
そして「私の親世代以上の人達」が持っている感覚について色々と考えさせられた。
生きている限り避けては通れない事をテーマにしているだけに、誰が読んでもそこそこ面白く読める作品ではないかと思う。
対話形式なのでアッっと言う間に読めるのも良い。読んで良かったと思える1冊だった。