8つの短編小説からなる短編集。
なんだかんだ言って小川洋子の信者なので、小川洋子の新刊は取り合う読む事にしている。
『妊娠カレンダー』以降、ずっと追いかけている作家さんではあるけれど『博士の愛した数式』でブレイクしてからは「きれいなジャイアン」ではないけれど「きれいな小川洋子」化が進んでいた。
ここ数年ようやく「きれいな小川洋子」が収まってきた気がしていたけれど、『口笛の上手な白雪姫』ではその手応えを感じることが出来た。
口笛の上手な白雪姫
たとえ世界中が敵にまわっても、僕だけは味方だ。
公衆浴場で赤ん坊を預かるのが仕事の小母さん、死んだ息子と劇場で再会した母親、敬愛する作家の本を方々に置いて歩く受付嬢、ひ孫とスパイ大作戦を立てる曽祖父——。
不器用で愛おしい人々の、ひたむきな歩みが深く胸をうつ。
あなただけの〈友〉が必ず見つかる。静謐で美しい傑作短編集!
アマゾンより引用
感想
小川洋子と言うと「女性が好きそうなハートフルな話書く人だよね~」みたいな認識の人が多そうだけど、オールドファンから言わせると「はぁ? 何言ってんの? 意味わかんないんですけど?」って感じだ。
小川洋子の真骨頂は、ぶっちぎりのM気質と変態性にあると思う。
そして、そこに気付いてしまった人は小川洋子から離れることが出来ない。
今回は小川洋子の変態性が濃厚に表現されていて最高だった!
(ただし一部の作品に限る)
特に表題作の『口笛の上手な白雪姫』は小川洋子の気持ち悪さが全面に出ていて最高だった。
この作品の中の「白雪姫」とは、とある銭湯で赤ん坊を預かることを仕事にしている小母さんのこと。名前は書かれておらず作品の中では「小母さん」と表記されている。
私自身、日記に「年を取った女性は小さくて可愛いものを異常に好む傾向があり、私もすでにそうなってきている」って話を書いたけれど、小川洋子もまた「おばあちゃん」の領域に踏み込みつつあるのかな…と思ったりした。
実際、この短編集に出てくる登場人物達の中には中年以降の人間が多い。
かつての小川洋子は作品の主人公に少女を選ぶ事が多かった。
もちろん少年だったり、成人女性だったりする事もあったけれど、少女の比率が高かった事は否定できない。
ところが、ここ数年は確実に少女の登場率が減ってきている。少女の代わりに躍り出てきたのが「おばさん」だったり「おばあさん」だったりする人達。
村上春樹は歳を重ねても大学生や厨二病を引きずった青年ばかり書いている印象があるけれど、小川洋子は歳を重ねるごとに主人公の目線が変わってきている。これはどちらが良いとか悪いとかって話ではなない。
それにしてもこの短編集。面白い作品とそうでない作品の落差が激しい。
なので小川洋子のファンでない人にはオススメ出来ない。小川洋子が好きな人は読んでおいても良いかな…と言う感じ。
老齢期に突入した小川洋子がこれからどんな作品を読ませてくれるのか楽しみにしていている。
出来る事なら短編集ではなく、じっくりと楽しめる長編小説をお願いしたい。