娘の体操教室に驚くほど素質の良い男の子がいた。
彼は娘と同じく体操初心者で入ってきたにも関わらず、何をやらせても簡単にマスターする素質を持っていた。よそのお子さんではあるものの、私も密かに「この子はどこまで伸びるんだろうなぁ」と彼の成長を楽しみにしていた。
しかし彼は何をやらせても真面目に取り組まないのだ。
体操自体は好きみたいなのだけど、先生達の言う事は聞かないし柔軟等のトレーニングをまともにしない。ふざけていつも先生に叱られてばかり。先生達は彼に期待している分、歯がゆく思っていたと思うのだけど、彼に対してはかなり厳しく指導していた。
傍で見ている素人の私でも「本気で頑張れば伸びるだろうにもったいないなぁ…」と思っていた。
しかし先生達はいつの頃からか彼に対して諦めてしまったらしく、彼が真面目に取り組まなくても厳しく指導する事はなくなってしまった。
よく「人間、叱られているうちが華だよ」なんて事を言われるけれど、まさに彼は「叱られている時が華」と言う時期を通り過ぎてしまったのだった。
娘の体操教室では年に2回進級テストが行われる。
体操教室は出来たばかりなので進級テストに合格した子が新しく出来る上のクラスに上がる…と言う形で昨年の秋に進級テストが行われた。娘は途中まで本気の体操コースではなく、アクロバットコースだったので進級テストは受けていないのだけど、先生の推薦で上のクラスに入ることになった。
そして新しいクラスでの練習がはじまったのだけど、上のクラスに真面目に頑張らない男の子の姿は無かった。
春の時点で彼は体操教室で1番出来る子だったはずなのだけど、進級テストを合格して上がってきたのは真面目に頑張っていた目立たない男子数名と、娘と同じくアクロバットコースから上がった女の子が1人。
秋の進級テストの時点で真面目に頑張らない子はは明らかに「出来る子」ではなくなっていたのだ。
真面目にコツコツ頑張ってきた子達はいつの間にか彼を追い越して上手になっていた。
しかし娘は今でも「あの子が本気出したら今からでも私は負ける」と言っているし、私もそれは事実だと思う。だけど彼はもう駄目なんだろうな…とも思う。頑張れない子は伸びようがないのだ。良い物を持っているのに、もったいなさ過ぎる。
世の中には「真面目に努力するのはカッコ悪い」みたいな価値観を持つ人もいるけれど、娘の体操教室での分かりやすい結果を目の当たりにして「子どものうちに真面目に努力する技術を身につけておくって重要なのかも知れないな」なんて事を思った。