吉田修一と言えば2025年は『国宝』大ヒットが印象的だったけど、今回読んだ『ミス・サンシャイン』も芸能系のお話。『国宝』は歌舞伎だったけれど『ミス・サンシャイン』は映画女優。
ただし『国宝』と大きく違うのは「芸」だけでなく「戦争」や「原爆」にもスポットが当たっているので作品の方向性は随分違っている。
ミス・サンシャイン
- 大学院生の岡田一心が、伝説の映画女優・和楽京子こと石田鈴の荷物整理を手伝うことから始まり、彼女の長い人生に触れていく。
- 物語は現在を生きる一心の視点と、石田鈴が歩んできた過去を往還する構成で進み、一人の女性の生涯が交錯する。
- 石田鈴の人生では映画界での活動が大きな軸となり、女優として生きた歳月と原爆によって運命を大きく左右された石田鈴の過去が明らかになっていく。
感想
面白かったけれどテーマが少しブレ気味だったように感じた。吉田修一の思いは伝わってきたけれど、なんかちょっと物足りない。
- 石田鈴の女優人生
- 戦争と原爆
- 一心の成長
- 恋と愛について
全ての要素が絡み合って作品を構成している……と言ってしまえばそうなのだけど、どれもこれも「痒いところに手が届きそうで届かない」というようなもどかしさを感じた。
鈴さんにしても一心にしても魅力的なキャラクターで読んでいて気持ちが良いし、テンポの良い文章でサクサク読み進めることができた。特に石田鈴が「ミス・サンシャイン」と呼ばれることを良しとしなかった反骨精神などはグッとくるものがあった。
吉田修一は長崎県出身とのこと。作中でも「長崎県の人間は原爆を知っているけれど長崎県以外の人は原爆について知らなさ過ぎてビックリする」というようなことが何度も書かれていたけれど「長崎への原爆投下」は『ミス・サンシャイン』において大きなテーマになっている。
並行して描かれているのが石田鈴と佳乃子のシスターフッド的な関係。友情と呼ぶには濃過ぎる気がした。恋とか愛に近い関係なのに、そこはきっちり描き切れていない。『国宝』で描かれていた喜久雄と俊介の関係と比べるとあまりにも薄い気がした。あの当時、既婚女性が夫を置いて親友の看病のために長崎から東京へ行く…なんて、ただならぬことだと思うのだけどね。鈴と佳乃子の関係は「匂わせ」程度にとどめているのは何か意図があってのことなんだろうか?
作品のボリュームにしては内容を詰め込み過ぎてしまった気がする。
私としては物足りなかったものの、それは吉田修一作品に期待していたから……って部分も大きいと思う。期待せずに読んでいれば「面白かった」と思っていた可能性は否定しない。『国宝』の後に読んでしまったのが悪かったのかも。点数を付けるなら70点って感じの1冊だった。


