百合の季節なのでふと読みたくなって手に取った。
『津村節子 白百合の崖 山川登美子・歌と恋』は与謝野晶子と共に与謝野鉄幹に歌を学んだ歌人、山川登美子の半生を描いた作品。
伝記ではなく小説である。私
にとって初めて読んだ津村節子作品で思い入れの深い1冊。この作品を読まなければ、津村節子にハマる事も吉村昭を好きになる事も無かったと思う。
津村節子 白百合の崖 山川登美子・歌と恋
明治12年、福井県に生まれた山川登美子は与謝野鉄寛主宰の「明星」に参加、与謝野晶子と共に名花二輪と謳われる。
登美子はその才能と美貌を“君が才をあまりに妬まし”と晶子に詠ませながら、鉄寛への恋も、歌もあきらめ、親の定めた縁談に従う。
―鉄寛・晶子の強烈な個性の陰でひっそりと散っていった登美子のあまりにも短い人生。同郷の歌人への深い共感と、愛惜をこめて綴る評伝小説。
アマゾンより引用
感想
小説に出てくるヒロインって、ある程度パターンがあるように思う。
主人公タイプと言うのか、積極的で前に出るタイプの主人公の方が物語が転がりやすい。例えば『赤毛のアン』のアンシャーリー。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラ。『若草物語』のジョセフィーン・マーチ。
日本の文学作品だと地味なヒロインもいるけれど芯は強くて意外と譲らないタイプが多い。
実際、有吉佐和子や宮尾登美子の描く女性は芯の強い人が多い。一見すると「耐え忍ぶ女性」だったりするのだけど、よくよく読むと「ヒロインって実は最強なのでは?」と気付かされる。
ところがこの作品の場合正真正銘「負け組」と言ってもいいようなヒロインなのだ。だが、そこが良い。初めて読んだ時はヒロインに感情移入しまくって涙を禁じ得なかった。
実在の人物がモデルなので「そう描くしかなかった」と言ってしまえばそれまでだけど、与謝野晶子ではなく山川登美子をヒロインに持ってきたところが津村節子らしさだと思う。
ヒロインの山川登美子は与謝野晶子と共に与謝野鉄幹から短歌を学び、与謝野鉄幹に恋するのだけど、ご存知の通り与謝野鉄幹は与謝野晶子と結婚している。
親の勧める人と結婚するも夫は結核で他界。
その後、日本女子大学に入学した矢先に自らも結核で他界する。まったくもって「悲劇のヒロイン」と言う言葉がしっくりくる人だ。
この時代は山川登美子のように自分の気持ちを前に出す事が出来ずに一生を終えた女性が多かったのだと思う。だからこそ人々は与謝野晶子の惹かれたのだ。
物語の面白さもさる事ながら、津村節子の読みやすく美しい文章がとても良い。
与謝野晶子にしても山川登美子にしても「お金持ちのお嬢様」なので言葉遣いが綺麗で読んでいてうっとりしてしまう。久しぶりに再読してみて、改めてその品の良さを実感した。
この作品を初めて読んだのは学生時代。ヒロインの不運に涙したり憤ったりしたものだけど、40代になった今は少し感想が違ってきている。
「それでもヒロインは恋をしたのだし、短い人生だったけれど晩年は好きなこともしたのだから、それはそれで幸せだったのかも知れないな」と思ったり「幸せになりたければ強くなければいけないよね」と思ったり。
それでも熱く好きだって事は昔も今も変わらない。
「津村節子がお好きなら読んでみてくださいね」と言いたいところなのだけど絶賛絶版中。
こんなにもロマンティックで切なくて素敵な作品が絶版だなんて残念過ぎる。
新潮社版も新潮文庫版も古本でしか手に入らないらしい。Kindleなら読めるようなので、どうしても気になる方はKindleか古本で探してみてください。(Kindle版は上の画像から飛べるように設定しています)