感想のリクエストを戴いたので手に取ってみた。
町田康は初めて読む作家さん。「面白い」との評判を聞いていたけれど、食わず嫌いしていた部分もあったし、なんとなく縁が無かったのだと思う。
この作品は「河内十人斬り」と言う明治時代に実際にあった事件をモチーフにした小説とのこと。読み応えのある長い物語だった。
告白
人はなぜ人を殺すのか―。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
物語の舞台は明治時代。主人公は裕福な家でわがままに育った熊太郎と言う男。
熊太郎は他人と上手くコミュニケーションを取ることが出来ず、鬱屈を抱えて成長し、立派な駄目人間として大人になる。
現代で言うなら「金持ちのバカ息子がヤンキー崩れからヤクザに足を突っ込んだ」ってところだうか。
賭博と暴力を繰り返しで、読んでいて少しウンザリした。舞台が時代めいているのに「クールミントのような」とか「メルヘンな気持ち」と言うような現代的な言葉が入ってくる。
おかげで、どうにも物語の世界にのめり込む事が出来なかったのだけど、これは「あえて」の事であって、こう言うノリが好きな人がいるのも理解出来る。
主人公の熊太郎は現代風に言うと一種の発達障害だったのだと思う。
その点では同情するけれど、私は最後まで主人公が好きになれなかった。
小説の主人公の場合「駄目人間」だったり「クズ」だったりするのはアリだと思う。実際、私にも「駄目人間でも憎めない」と思える登場人物(別の作品)もいるのだけれど、熊太郎は受け付ける事が出来なかった。
恐らく私は「自分に向かっていくタイプの駄目人間」が好きなのだと思う。そして暴力系駄目人間は嫌いみたいだ。
勢いのある作品だと思ったし、長い物語の中で気に入った部分もある。
熊太郎が女性に声をかけられずに悩む描写とか、熊太郎の舎弟の弥五郎が妹と別れる場面とか。
一部、気持ちを持っていかれる場面もあったけれど、私は熊太郎の悲劇を同情する事は出来なかったし「それだけ好き勝手やってたんだし仕方ないよね」としか思えなかった。
主人公の熊太郎はどこからどう見ても悪人としか思えないし、悲惨な最後を遂げるのだけど、最後まで熊太郎についてきてくれた弥五郎という男がいたのは唯一の救いだったのではないかと思う。
熊太郎と弥五郎の関係は友情とも少し違うような気がする。だからと言って互いを分かり合っていた風でもないところが面白い。
「ただ寄り添い合っていた」と言うようなイメージ。本当に信頼出来る相手って本来そういうものなのかも知れない。
この作品、好きか嫌いかと問われたら「嫌い」の部類に入る。
……とは言うものの、町田康はすごくパワフルな作家さんのようなので、何かの機会に別の作品を読んでみようと思った。