図書館の新刊コーナーで目についたので、なんとなく手にとってみた。
朝倉かすみの作品朝倉かすみを読むのはこれで3冊目。
前回読んだ『田村はまだか』はそこそこ面白かったように記憶している。前評判も何も無い状態で本を手に取る事が出来るって幸せな事だ。
わたしたちはその赤ん坊を応援することにした
この子の未来を応援しよう、と決めた子がわたしたちにはいた。オリンピック代表の彼女に期待し、夢を託したが―(第一話)。産む女を国家全体で支援する世界に住むスミレ。“志願母”の彼女は今日も国営のサロンへ通う(第二話)。どこかで誰かがあなたの味方。でもストレートには受けとれない、届かない、なぐさめや励まし…ビターで不思議な7つの世界。
アマゾンより引用
感想
微妙に感じの悪い話を集めた短篇集だった。「感じが悪い」と書いているけれど、これは褒め言葉。凄く上手い。
前回読んだ『田村はまだか』はどちらかと言うと「いい話」「心温まる話」だったで、こんなに感じの悪い話を書ける人とは思っていなくて吃驚した。
毒々しかった頃の小川洋子からファンタジー色を抜いたような、嫌な感じの毒がある。
7つある短篇の中には別次元の日本設定の物もあったけれど、基本的には現代日本が舞台になっている。
題名の元になっただろう話『森のような、大きな生き物』は、オリンピック級のスポーツ選手を応援する人達が描かれているのだけど、そのモデルは名前こそ出ていないけれど実在の人物。
「ああ…そう言えば、あの時はそうだったね」と思わせつつ、視点が意地悪で素晴らしいのだ。
人間の身勝手さが鮮やかに描かれていて、単に当時の世相を描いた作品に留まっていないところが良いと思う。
基本的にどの作品も「人間の嫌なところ」とか「ズルいところ」に焦点があたっている。
そして、嫌なテーマを持ってきている割に読後感が絶望的に悪いって訳ではないところが作者の持ち味だと思う。星新一のショートショートにも通じるところがあると思う。
「よくよく考えてみると、すっごく嫌な話なんだけど面白かったな」と思える感じ。
深く考えさせられる……とか、心に残るってほどでもないのだけど、どの作品にも「読む楽しさ」が詰まっていると思う。
朝倉かすみは「文章達者」な人だと思う。他の作品も是非読んでみたい。
『田村はまだか』は連作短編集、そして今回は短篇集。
長編だったらどんな感じになるのだろう? これからも追っていこうと思う。