そう言えばこのサイトには作品の感想をあまり書いていないけれど、松尾スズキがけっこう好きだ。特にエッセイ。
図書館で借りたのをサクッと読んで感想を書かずに返却してしまうことが多いらしく、松尾スズキのエッセイの感想を書くのはこれが初めて。
松尾スズキは人好きな人のか、人を見る目線が優しくて好きなんだよなぁ。今回読んだ『人生の謎について』もなかなか良かった。
人生の謎について
- 演出家であり俳優でもある松尾スズキが自身の反省を振り返りつつ「人生って、なんなんだ。」と問うたエッセイ集。
- 家族の思い出、再婚した妻との生活、コロナ禍の様子など。
- 時に楽しく、時にほろ苦い松尾スズキの人生譚。
感想
『人生の謎について』と言う題名にふさわしく、どのエッセイの最後も「人生って、なんなんだ。」と言う一文で締めくくられている。
日々の暮らしを追ったエッセイ…と言うより、松尾スズキの半生を振り返るエッセイ集って感じだった。
実は私。松尾スズキのエッセイはそこそこ読んでいるけれど、松尾スズキ自身については興味がなかったので、松尾スズキがどんな人生を送ってきた人なのか全く知らなかった。
私は芝居好きなので演出家、俳優としての松尾スズキは知っていたので「お坊ちゃんで早稲田とかで演劇研究会に入って芝居の世界にどっぷり…みたいな人なんだろうな」くらいに思っていたけど、早稲田どころかなかなかの苦労人だった。
そもそも松尾スズキに本気で漫画家になろうとしていた時期があった…ってことが驚きだった。松尾スズキ…やる事なす事面白いではないか。エッセイじゃなくて、いっそ自伝を書いて欲しい。
苦労人だったせいか、ほろ苦い話が沢山収録されていた。特に大学時代、一緒に演劇をやっていた友達の話はなんとも言い難い作品でたぶん一生忘れられないと思う。その作品の書き出しはコレ。
私は、親友と言うものをもてない。
なんかイキった書き出しだな…と思って読んでみたら、なんとも切ないエピソードだった。哀しいと言うか、なんと言うか。ネタバレは避けたいので気になる方は自分の目で確かめて戴きたい。
もちろん切ない系のエッセイばかりではなく、気楽に楽しいエピソードもあるので安心して読んで戴きたい。
ただ少し残念だったのは後半部分は面白さが足りなかった…ってこと。特にコロナ禍の演劇界の様子などは可もなく不可もなく。桜庭一樹『東京ディストピア日記』で描かれたコロナ禍の東京の描写と較べると、圧倒的に稚拙な印象を受けた。
…とは言うものの演劇人としての松尾スズキが好きな人にはたまらないエッセイだと思うし「重めの小説を読むのはちょっとシンドイけど何か読みたいな」って時に読むエッセイ集としては充分面白いと思う。
気楽にゆっくり楽しめる大人のためのエッセイ集だと思った。