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ハドソン河の夕日 弓透子 邑書林

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『ハドソン河の夕日』は表題作他2編からなる短篇集。表題作は芥川賞候補になるも受賞出来なかった作品。他の2編を含めて「外国で暮らす日本人」が登場する。

前回読んだ『老女さらい』が良かったので、弓透子の作品を続けて読んでみたけれど、『ハドソン河の夕日』はイマイチ好きになれなかった。

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ハドソン河の夕日

非婚の時代、ニューヨークで肺炎を患った息子を見舞うため渡米した両親は…。若きデザイナーを襲ったエイズをめぐり、「親」「友情」そして「命」を問う表題作他2編を収録。

アマゾンより引用

感想

『ネパールの婚礼』はネパールで働く日本人女性の挫折を『ロックフェラーの館』は、これまたアメリカで働く商社マンの青年の挫折を描いている。

どちらも善良で聡明な日本人が主人公。それぞれにテーマは違っていて、それぞれ面白かったのだけど読後感は2作品ともほとんど同じ。

これが作者の個性なのだとは思うのだけど、まったく同じ印象の作品を2つ並べて短篇集にしちゃうなんて、勿体無さ過ぎる気がした。

続けて読んだのもあって、作品同士で印象を打ち消し合っている気がした。

表題作で芥川賞候補にもなった『ハドソン河の夕日』は、ニューヨークで暮らすデザイナーの息子(三男)が肺炎で危篤とのことで、息子に会いに行く母親が主人公。

ネタバレを含む感想なので、ネタバレが苦手な方はご遠慮ください。

勿体ぶって「ネタバレ」と書かせてもらったけれど「ニューヨーク」「肺炎」とくれば、ちょっとでも勘のよい人なら肺炎は「カリニ肺炎」で、息子はエイズなのだろうとピンとくると思う。

私もピンと来た。しかも息子は小さい頃から女装が好きだったという設定。

非常に丁寧な文章でどう料理してくれるのだろうとワクワクして読み進めたのだけど、ただ綺麗なだけの物語で肝心のところが欠けている気がした。

息子は同性愛者ではなく、同性からのレイプによってエイズになったというオチ。まぁ…そう事が無いではなかろうけれど、大事な部分をはぐらかされた気がした。

しかも息子の女装が性同一性障害からくるものかどうか…という記述はなく「息子は美しい物が好きだから」的な描き方になっていて、息子は「そんな奴おらんやろ」とツッコミたくなるほど聖人として描かれている。

息子の性癖についても、セクシャリティについても一切触れられていない。

いったい弓透子は何が書きたかったのだろう? 文章も綺麗だし設定も面白いけれど、肝心の物語がどうにもお粗末。この作品で芥川賞を取れなかったのはなるほど納得。

前回読んだ『老女さらい』はものすごく感動したのだけれど、そう言えばその時も「少し綺麗事過ぎる」と言う感想を書いている。

弓透子の作風から「綺麗事過ぎる」部分を抜いたら、きっと良い作品が生まれるだろうと思う。なんだか色々と残念過ぎる1冊だった。

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