『フライト』は1990年に公開されたロバート・ゼメキス監督作品。予備知識ゼロで視聴したのだけど、予想外の物語に驚きっぱなしだった。
DVDのパッケージを観て戴きたい。デンゼル・ワシントンの航空サスペンスとの触れ込みで、青空を背景にドヤ顔のデンゼル・ワシントン。航空事云々…の話とのことだったので、てっきり航空事故を回避した素晴らしい貴重の物語かと思っていたら、まったく違った話だった。
今回の感想はネタバレを含む内容になるので、ネタバレNGの方はご遠慮ください。
フライト
あらすじ
航空機の機長として働くウィップ・ウィトカー(デンゼル・ワシントン)は、オーランドからアトラントに向かう航空機が制御不能になる…と言うアクシデントに見舞われた。航空機は突然急降下。
ウイップは制御不能になった航空機を背面飛行させた後に地上への胴体着陸を試みる。その結果、結果、乗客・乗員102名のうち96名が生還を果たした。
ウィップは「奇跡のパイロット」として一躍時の人となる。
ところが事故調査委員会はウィップの血液からアルコールが検出されたとして、彼に過失致死罪の適用を検討していた。
実は、ウィップはアルコール依存症で、コカインの常習者だった。
通常なら生還不能ともされる状況下で多数の乗客・乗員を救った英雄とも言われる一方で、過失致死罪となれば終身刑の身となるウィップはNTSBの尋問に挑む。
デンゼル・ワシントンが演じるクズ人間
デンゼル・ワシントンと言えばアメリカを代表する黒人俳優。『遠い夜明け』『マルコムX』『グローリー』『フィラデルフィア』『ペリカン文書』等、様々な作品に出演していて「アメリカ映画で良き黒人を演じるとしたらデンゼル・ワシントン」みたいな印象さえある。
昨今のアメリカ映画は人権問題とか色々あるせいで「黒人=ヒーロー」って描かなきゃならないルールでもあるかと思うほど、黒人が善人として描かれるパターンが多い。
デンゼル・ワシントンはアメリカ映画界における「良き黒人」の代表のような存在で、なんだかんだ言ってオイシイ役を演じることが多い。
ところが『フライト』でデンゼル・ワシントンが演じたウィップ・ウィトカーは驚きのグズ人間だった。とりあえず、そこに驚いた。
『フライト』は感動の航空機ドラマ…ではなく、デンゼル・ワシントン演じるクズ人間を堪能する映画でるあ。
事実を隠蔽するしかないと奔走する人々
ウイップはアルコール依存症で、ドラッグまでやっちゃう人間なのだけど、機長としての腕前だけは確かなものを持っていて、航空機事故の原因はウィップの操縦ミスではなく、機体の問題だった。それを操縦技術で回避しちゃうんだから、凄いっちゃあ凄い。
だけど「酒を飲んで航空機を操縦する」と言うことは重罪であり、ウィップが多くの人の命を救ったことと、アルコールの問題は別の話。
航空機事故の際、残念ながら6名が死亡しているし、重症を負った人間もいる。「ウィップがアルコールを飲んでいなければ全員助かったんじゃないの?」みたいな話にもなる。
事故原因を巡る裁判で、周囲の人間はどうにかウィップを助けたいと奔走する。「機長が飲酒していた」と言う事実が発覚すれば航空会社の賠償額はとんでもないことになる。
腕利きの弁護士をやとって、ウイップのアルコール依存症を握りつぶそうとする訳だけど、なかなか酷い展開。
アルコール依存症の恐ろしさ
ウィップの裁判は彼1人の問題ではなく、周囲の人を巻き込んでのことなのだけど、肝心のウィップがクズ過ぎて凄い。
- 酒を隠されても探し出して飲む
- 車を運転しながら飲む
- 「酒はもう辞めた」と嘘をついて飲む
あげくの果ては公聴会の前日にも飲んで泥酔。そしてその解決法がドラッグって言うのだから驚いたのなんの。
酒の酔いをドラッグで醒ますと言う新しい発想!
……実は事故冒頭にもドラッグをキメる場面があるのだけど、どうやら事故当日もアルコールの酔いをドラッグで醒まして操縦していたらしい。
アルコール依存症の人のクズっぷりが余すところなく描かれていて実に素晴らしかった。
私の死んだ父もアルコールで身持ちを崩した人で、父に内緒でアルコール依存症専門病院に相談したことがある。その時、医師に言われたことはこんな感じ。
- アルコール依存症は治療しないと治らない
- 家族や周囲の人間が言っても無理
- 入院しないと無理
- 退院後も断酒会等に入って一滴も飲まない生活をしないと無理
私の父の場合、アルコール依存症の治療云々の前に肝臓がやられて死んでしまったのでアルコール依存症の治療を受けることはなかったのだけど、肝臓がやられていなければウイップと同じ行動をしていたと思う。
『フライト』は楽しいとか感動する…ってタイプの映画ではなかったけれど、なかなかの秀作だと思う。