コロナウイルスが流行りだしてから夫と家で映画を観る時間が激増している。休日、どこにも出掛けないので当然の流れ。
『ブンミおじさんの森』は予備知識ゼロの状態で、題名だけでなんとなく録画した。
- 森で生活するブンミおじさんのハートフルな物語?
- 宮崎駿的な環境保護っぽい話?
……程度の予想で視聴したのだけど、どちらも大外れ。ハートフルな物語でもなければ、環境保護も関係なかった。
後で調べたところによると、タイ映画初のパルムドール受賞作とのこと。
なんかこう…主張したい事のある映画なのは分かったのだけど、私にはまったく理解不能だった。
ただ「なんか凄い」ってことだけは感じた。
ブンミおじさんの森
ブンミおじさんの森 | |
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ลุงบุญมีระลึกชาติ | |
監督 | アピチャートポン・ウィーラセータクン |
脚本 | アピチャートポン・ウィーラセータクン |
キャスト | タナパット・サイサイマー ジェンチラー・ポンパス サックダー・ケァウブアディー ナッタカーン・アパイウォン |
製作 | アピチャッポン・ウィーラセタクン サイモン・フィールド キース・グリフィス シャルル・ド・モー |
あらすじ
作品の舞台は緑豊かなタイの東北部。
主人公のブンミは腎臓を患っていて、自宅で簡易透析を受けながら生活しているが、自分自身で余命が残り少なくなっていること感じていた。
ブンミは自分の残りの人生が長くないことを悟り、ある日、死んだブンミの妻の妹・ジェンとその息子トンを自らの農園に呼び寄せた。
夜、3人で食卓を囲んでいると、突然女性の幽霊が出現。幽霊の正体は19年前に亡くなったブンミの妻・フエイだった。
そして今度は長年行方が分からなくなっていたブンミの息子・ブンソンが巨大な猿(ゴリラ的な動物)姿を変えて現れる。
愛する家族と再会したブンミは彼らと共に深い森の中に入っていくが…
謎の死生観
作品はタイの緑豊かな農村の風景からスタートする。日本とは違う景色…だけど日本と似たような文化を持つ国だけあって、なんとなく懐かしさを感じる映像。タイは仏教の国なので、なにげに日本と重なる部分がある。
冒頭部で主人公のブンミは何やらよく分からないけど病気を患っているっぽい。(透析をするあたりで腎臓病であることが分かる)日本のように充足した医療体制ではないものの、ある意味在宅医療と言えなくもない感じ。
親戚を呼んで食事をする場面までは「ミニシアター系の地味で淡々としてアジア映画だな」くらいのイメージで見ていたのだけど、なんの予告もなく唐突にイメージが打ち砕かれる。
……全く何の前振りもなく、幽霊(ブンミの亡き妻)が登場するのだ。それも「ああ、いたのか」くらいのナチュラルな感じで。
「えっ? この映画ってホラーだったの? それともファンタジーなの?」と、半ばパニックになっているところに、次は謎の猿人が登場。謎の猿人はブンミの息子って設定だった。
幽霊にしても、謎の猿人にしても、自然に画面に入ってきて「どうもこんにちは。私の顔に何かついてますか?」くらいのノリで知れっとしていることに、まずもってついていけなかった。
この謎描写はどうやら死生観に繋がっているらしい。
ブンミ自身「自分は何度も生まれ変わっていて、前世は牛だったかも知れない」的なことを言っているのだ。
そう言えばアジア仏教系の国って生まれ変わり思想が普通にある。チベットなんかは「前世の記憶を持つ子ども」のエピソードがやたら多いし。
静止画が生み出す不可解な夢の世界
『ブンミおじさんの家』は前編通して「現実なのか妄想なのか分からない世界」が描かれている。それはまるで、寝ている時に見る不可解な夢の世界に似ている。
夢と言っても朗らかなファンタジー的なものではなくて、どちにかと言うと悪夢寄り。ハッと目が醒めた時に「なんだか訳が分からない夢を見ていたけど、あれは何だったんだろう?」と気になるような、そんな夢。
作中では静止画が多用されているのだけれど、静止画の場面は特に悪夢感が強い。
実際の世界なのか、それとも過去…あるいは前世なのか、その境界をあえてボカしているような気がした。
悪夢と現実を行ったり来たりさせられる…そんな感じ。
偉大なるイミフ
『ブンミおじさんの家』には宗教的な…思想的なメッセージが「これでもか!」と言うほど詰め込まれていると思うのだけど、正直私には意味不明で訳が分からなかった。
ただ「面白くなかった?」と聞かれると、答えに詰まってしまうのだ。
「訳が分からなかった」と言うくせに、様々な場面が頭にこびりついているのだ。記憶への食い込み度が半端なくて、パルムドールを取るのも納得出来る。
偉大なるイミフ(意味不明)……
私には全く理解出来なかったけれど「なんか凄い映画を観たよ」って感じが凄い。仏教とかアジアの文化に通じている人なら理解できるのではないかと思うので、気になる方は是非、この不思議な映画を観て戴きたいな…と思う。