私は女性を表現する言葉の中で「娘」という言葉が、いっとう好きだ。
女の子では子供っぽいし、女では生々しい感じがするし。少女となると、厄介ごとを内包していそうな感じがして、あまり近寄りたくない感じ。
なんとなく「娘」が1番、色っぽくて、人生を楽しんでいそうなイメージを持っているから、好きなのかも知れない。
そんな訳で、今回も題名惚れして手にとってしまった1冊だったりする。
ちなみに、この題名の「娘」は私がイメージしていた娘ではなくて、家族関係に起因するところの「娘」であった。
鞄屋の……とくるからには「娘」だって、そうあった然るべきなのだが、なんとなくガッカリであった。
鞄屋の娘
彼女は鞄を作る父の背中が好きだった。だだだ、だだだ、というミシンの音が「父の音」だった。やがて、家庭に安住できない父は家を出、亡くなった。
大人になり、息子をもうけた彼女には既に母もなく、どこかで暮らす同じ「掌」をした異母兄だけがいた…。
やがて、彼女は父と同じ鞄作りを始める―。家族、愛、人生の意味を問う第6回小説新潮長篇新人賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
肝心の内容だが、イマイチ……どころか、まったくもって好みではなかった。
「あはぁ~ん。好きにしてればぁ」という感じ。親子関係とか、そういうテーマは大好きな部類なのだが、いかんせんストーリーが生温過ぎる。
どうせ、夢見がちに作るのであれば、徹底的に夢を見させて欲しいと思うのに、そこまで引っ張っていってくれるだけのエネルギーがなくて、どこかボンヤリした印象を受けた。
恵まれて人の書いた、夢見がちな創作物……といった感じだった。
中途半端に心を病んだ人を引っ張ってきているあたりが姑息で、いただけない。ぶっちゃけた話、この作品から私は「痛み」を感じることができなかったのだ。
「痛み」に憧れているのと「痛み」に襲われるのとでは、違うということだ。短編小説ならまだしも、ちょっとした長さになってくると憧れで押し切るには、やや弱すぎる。
ただ1つ好感が持てたのは「職人」というキーワード。
職人の生き方……あるいは職人のプライドというようなものが、随所に織り込まれていたのには、なるほど『鞄屋の娘』という題名に恥じないよなぁ……とは思った。
これから先、手作りの鞄屋さんに行けば、きっとこ作品の題名を思い出すだろうけれど、きっとその内容は忘れているのだろうなぁ……と思った1冊だった。