研究本と言うには軽すぎる感じのウンチク本。
蓮っ葉な感じの文章に辟易させられたことを除けば、なかなか面白い作品だった。
私は「恋愛小説が苦手」と公言して憚らないが、しかし本当は「苦手」と言いつつ「大好物」なのだ。たまたま自分のツボに入る恋愛小説に巡りあわないだけの話。
そして恋愛小説の中でも「心中物」は好きなジャンル。なので、図書館でこの作品のタイトルを見た瞬間に「これは読まねばなりませんなぁ」と思ったのである。
純愛心中 「情死」はなぜ人を魅了するのか
内容紹介
なぜ人は男女の愛と死の物語に惹かれるのか近松、三島由紀夫、渡辺淳一、『ロミオとジュリット』からダイアナ妃の死。古今東西、小説実話問わず、人々を魅了しつづけてきた「究極の純愛」の”魅力”に迫る
アマゾンより引用
感想
面白かったのは宗教観によって「心中」に対するイメージが違うという点。自殺を禁じているキリスト教国は日本ほど心中を扱った作品が発達していないらしい。
『ロミオとジュリエット』以外に、これと言って目だった心中作品が無いのだ。
恋人達が死んでしまう悲恋物という事で『トリスタンとイゾルテ』や『ウエストサイドストーリー』が挙げられていたけれど、あれは心中ではないのだ。
また、外国はドラマティックな心中事件も日本に較べると件数が少ないようだ。
「不倫は文化だ」という迷言を言ったタレントがいたけれど、心中というのもある種の文化なのかも知れない。
しかしながら「心中」は自殺を否定する国の人々でさえ魅了される物らしくて『うたかたの恋』のモデルになった女性の遺骨など、熱烈なマニアによって盗まれことがあるらしい。
それと、もう1つ印象的だったのが「恋の果てに死ぬ」パターンと、「たまたま死にたいと思っていて、道連れになってくれる人がいたから死ぬ」というパターンがある……という話。
前者の心中が人気なのも分かるけれど、現代だと後者の心中の方がむしろ共感できるかも知れない。最近の作品だと『失楽園』が後者の筆頭に挙げられていた。
私が好きな小説だと、津村節子の『海鳴』なんかも、このカテゴリーに入ると思う。
「恋」と「死」ってのは人間の本能を掻き立てずにはいられない要素なのだと思う。
「恐いもの見たさ」、あるいは「そんなの駄目だって分かってるけど、でも…」と言うような破滅的なものに憧れちゃう気持ちってのは、誰しもが多かれ少なかれ持ち合わせているのだろう。
ちょっとした悪趣味や好奇心を満たしてれた面白い1冊だった。