『沼地のある森を抜けて』は今までにない不思議な雰囲気のある作品だった。
いしいしんじのような、薄井ゆうじのような。舞台は現代日本なのだけれど、ちょっとファンタジー色が入っている。
とてもに女性らしい作品だった。「糠床から人が出てくる」なてん発想は、男性には出来ないのではなかろうか。
沼地のある森を抜けて
はじまりは、「ぬかどこ」だった。先祖伝来のぬか床が、うめくのだ――
「ぬかどこ」に由来する奇妙な出来事に導かれ、久美は故郷の島、森の沼地へと進み入る。そこで何が起きたのか。
濃厚な緑の気息。厚い苔に覆われ寄生植物が繁茂する生命みなぎる森。久美が感じた命の秘密とは。
アマゾンより引用
感想
文字を追って行く、もとい物語を追いかけるという意味ではそこそこ面白かったのだけど、作品として見ると微妙かも知れない。
面白い…というなら、そうなのだけど途中、中だるみのする場所があるし、作者のひとりよがりと言うのか、新人作家さんが頑張りすぎて空回りをしたようなそんな雰囲気があった。
バランス的には、あまり良いとは言い難く。だが、昔から日本の女達が強いられてきたこと…あるいは悩んできたことの象徴のようなものを搦め手から文章にしようとした心意気は評価したい。
曖昧とした物語なので感想を書こうにも書き辛い。
「家」とか「子孫繁栄」とかいう問題がベースになっていると思う。
「家」や「家族」というものは、温かく寛げる場所であると同時に、半ば怨念めいた呪縛を含んでいると思う。そのあたりが暗喩的に上手く書かれていて、その類の事柄に違和感を覚えている女性なら、なんとなく共感しているのではないかと思う。
梨木香歩は「女」を描く作家さんなのだなぁ…と思った。
読書録に上げている作品と、代表作をちょろりと読んでみただけに過ぎないけれど、今後はちょっと気にかけて読んでいきたいと思う。