スイーツ風味漂う「自分探し」小説だった。
主人公はセックスに溺れる歯科医大に通う女子大生。ふとしたキッカケから40歳の男と旅に出る。その旅によって2人はそれぞれ「なりたかった自分」を見つけて、めでたしめでたし…という流れ。
僕らが旅に出る理由
大学生の衿子は月火水木金、5人の恋人がいる。ある日、実家の歯医者に来たラーさんと旅に出ることに。
さあ、いくよ。月・火・水・木・金と、曜日ごとに違う恋人がいる歯科医大生の衿子。ある日衿子は、恋人ではない「ラーさん」(四十歳・男性)と行き先のわからない旅にでる―ふたりの行き着く先はどこ?
あたらしいリアルとファンタジーが交錯する、赤羽駅発・傑作ロードノベル。
アマゾンより引用
感想
都合の良い話だったし、いつもなら「こんなの読んでいられない」と思うようなタイプの小説なのだけど、案外面白かった。
「旅」という設定が上手く活かされていたと思う。多少のいびつさを感じても「まぁ、旅行中だしアリかな…」と思えてしまったのだ。
何よりも気に入ったのは旅の最中、主人公達が狂ったように甘い物を食べまくっていたこと。お菓子だけを食べて「これが夕食」なんて日があったりして、気持ち悪いほどなのだけど、甘い物好きの人間からすると、ちょっと羨ましいような食べっぷりだったのだ。
実際、お腹がいっぱいになるほどチョコレート菓子だけを食べ続けたりしたら、満足するどころかウンザリしてしまうだろうけれど。
話の筋はそれほど面白いものでは無かったし、ラストは都合の良くまとまっていて、安っぽい感があるのは否めなかったけれど場面場面が絵になる作品だった。
シアター系の映画館で上映するような映画にしたら素敵だろうなぁ……なんてことを思いつつ読んだ。
読み終えてから作者の唯野未歩子について調べてみたら、本業は女優と映画監督とのこと。
なるほどなぁ…と納得した。唯野未歩子は言葉を使って人間の内面を浮き彫りにするよりも、むしろ視覚的な方向から何かを表現するのが得意なのだと思う。
小道具や風景の使い方がやたら上手い。
私はそこそこ面白いと思って読んだのだけど、いかんせんスイーツ風味なので、苦手な人も多いと思う。
実際、私自身も「そこそこ面白い」と思ったものの、1年もしないうちに内容を忘れてしまいそうな気がする。
物語としての面白さには欠けるし、魂に食い込んでくるような文章ではないので心にグッっと刻まれないのだ。
骨太の小説を読むのに疲れた時などに読むには向いていると思う。雑誌を眺めるような感覚で、ゆるく読んだ1冊だった。