老齢の身で離婚をした父と母を見つめた娘の手記……という触れ込みの作品。
痴呆症のため特別養護老人ホームに入所した父の生活と母にいての想いと、作者の杉原美津子自身の葛藤と精神生活が、ごった煮のように詰め込まれていて、非常に読みにくい作りになっていた。
どれか1つのテーマでもって、じっくり書けば良い作品となったと思われるのだがテーマを詰め込み過ぎたのと、構成のマズさでもって粗雑に印象を受けてしまった。
1冊の読み物としては、決して良い出来ではないように思う。
老いたる父と
父と母は離婚した。これから二人には自由な老後が始まる。
離婚はその出発点となるはずだった。経済的な面でとりあえず保証されていれば、母は身辺の始末に何不自由はない。事実母は生き生きと暮しはじめた。
しかし父には急激なボケが進みはじめる。
両親を通して娘の立場から、夫婦とは、両親とは、そして性とは何かを考える。
アマゾンより引用
感想
色々詰め込み過ぎて残念だった反面、共感する部分が多かったことも事実である。
家族でありながら……いや、家族だからこそ分かり合えないという現実。
全身に大火傷を負い、また精神的にも参ってしまった杉原美津子の心の奇跡、痴呆症になった父親との付き合っていく中で生まれる悩みが生々しいタッチで描かれていたところは、とても良かった。
病や、老いは、誰もがいつかは通る道であり、ある程度の年齢になれば、誰でもそれなりに興味を持たずにはいられないと思う。
この作品を読んでいると「現実は厳しいなぁ」と思わず溜め息をついてしまった。
作品に登場した、特別養護老人ホームのありかたは客観的に見ても、良心的な場所で、理想的な形の介護体制であるように思えるのだが、それでも「これが正しいのだ」と割り切ることができない。
杉原美津子自身、自分の選択が間違っていないと納得しながらも心のどこかで、良心の呵責のようなものを感じている節があり、そのジレンマ痛かった。
生きてゆくのは……生きぬくというのは、なんと大変なことだろうかと思う。
だが、それでも生きてゆかなければならないのだとも思う。
『人はどんなに深い痛みにも越える力を、神様から授かっているのだと思いたい』……という杉原美津子の言葉には、大きく大きく肯いてしまった。
「思う」ではなくて「思いたい」というところがミソである。
確信はできないが、そうありたいと思う気持ちが、生きる力なのだろうか。
上手い作品ではなかったが、心に響く1作だった。