小学生が対象の文学賞『12歳の文学賞』を3年連続受賞した鈴木るりかが受賞作に大幅加筆した作品と書き下ろしからなる短編集。
12歳の文学賞を初めて受賞した『Dランドは遠い』は鈴木るりかが小学4年生の時の作品だと言うから驚きだ。大幅に改稿されているとのことだけど、それにしても上手過ぎる。
感想を一言で書くとするなら「ナニコレ、天才かよ?」で全て片付ける事が出来る。
さよなら、田中さん
- 『いつかどこかで』『花も実もある』『Dランドは遠い』『銀杏拾い』『さよなら、田中さん』の5作を収録した短編集。
- 『Dランドは遠い』は鈴木るりかが小学校4年生の時に受賞した「12歳の文学賞」受賞作。
- 貧乏な母子家庭で育つ小学6年生の田中花実が主人公。
- 図書館等では児童書コーナーに並べられる作品だけど、むしろ大人に読んで欲しい。
感想
小学生が書いた小説だと侮ってはいけない。普通にちゃんと面白いし、よく書けている。
驚きの洞察力と文章力。10代でこれだけの物が書けるとか末恐ろしいものがある。
11歳の娘に…と思って図書館で借りてきたのだけど、私の方がハマってしまった。娘は娘で「こんなん無理…書ける訳ないわ…」とショックを受けていた。
いや…これ大人でも書けないから。もしかしたらプロとして活動している作家さんの中にも驚愕している人がいるかも知れない。
……と絶賛しておいてなんだけど「やっぱり子どもだな」と思わせるような部分は多々ある。(逆に言うとゴーストライターが書いたのではなくて、本人が書いているのだとも言えるのだけど)
不幸のエッセンスの使い方がテンプレと言うか、お決まりの展開だったり、5作ある短編のうちネタがかぶっている物があるのはご愛嬌って感じがする。
しかし、主人公の母娘の生き生きとした描写や伸びやかな文章は実に素晴らしいし、読んでいて引き込まれるものがある。
西原理恵子がイラストを書いているけれど、西原理恵子を持ってきた人のセンスに脱帽する。主人公の田中花実の母娘は西原理恵子の作品から出てきたようなキャラクターなのだもの。
特に驚かされるのは表題作の『さよなら、田中さん』だ。
『さよなら、田中さん』は主人公が田中花実ではなく、田中花実のクラスメイトの男子。
中学受験と毒親がテーマになっていて、貧しい田中母娘一家との対比が素晴らしい。
毒親を描く作家と言えば、姫野カオルコを真っ先に思い浮かべるけれど、姫野カオルコとは全く違う切り口で面白かった。
2019年現在、作者の鈴木るりかは15歳。好きな作家は志賀直哉と吉村昭とのこと。遠藤周作のエッセイも好きらしい。15歳で良い趣味してる。偶然ですね。私も好きです。
鈴木るりかの今後の成長に期待したい。とりあえず2作目の『14歳、明日の時間割』は予約した。