北海道が舞台の熊物語だった。
動物写真を撮るカメラマンと熊を研究する人々、ハンター、アイヌの血を惹く女性達がウエンカムイ(アイヌの言葉で人を喰う熊)を追う……って話。
動物が好きだったり、自然が好きだったりする人なら、そこそこ読めるのではないかと思われるが、個人的には今ひとつ夢中になれなかった。
ウエンカムイの爪
北海道でヒグマに襲われた動物写真家・吉本を救ったのは、クマを自在に操る能力を持つ謎の女だった…。野生のヒグマと人間の壮絶な戦いを描く、第10回小説すばる新人賞受賞作。(解説・阿刀田高)
アマゾンより引用
感想
文章は読みやすいし、サービスたっぷりの作りになっているので、とっかかり安いのだけど、その分だけ小粒な仕上がりになっている。
しかも「山椒は小粒でピリリと辛い」って感じでもない。辛味がまったく感じられなかったのだ。
この手の動物もの(自然と人間の共存や環境破壊)を絡めてくるからには、人と動物が決して相容れることの出来ないやるせなさに身悶えしたり、滅びゆく種を想って涙したり、理不尽な成り行きに憤りを感じたりしたいのに、そういうところが、ちっとも無かった。
こんなネタを使っていれば、良い意味でも悪い意味でも何某か感情のうねりを覚えるものだが、あっさりと読み流してしまった。惜しい……じつに惜しい。
そこそこ面白いのに、読者をとっ捕まえて揺さぶりをかけるだけの力が無いのだと思う。
熊谷達也のデビュー作ということなので、筆がこなれていないのかも知れないけれど、それにしても薄味過ぎて頼りない。
エンターテイメントなら、もっと楽しませて欲しいし、純文学ならガッツリ骨太でいて欲しい。なんだか没個性な印象を受けた。
以前、『漂泊の牙』を読んだ時にも思ったのだが、なにかにつけて「惜しい」と思わせる作品を書く作家さんだなぁ……と思った。